【入門編決定版】独断で選ぶ国内ハードボイルド小説おすすめ8選+作家紹介+α【書介】
目次
北方謙三 『さらば、荒野』(ブラディ・ドール シリーズ)
正直なところ、かなり迷いました。
なぜならば、北方先生はオススメの作品が多いからです。(というより、作品自体が多いんですが、笑)
挑戦シリーズ、老犬シリーズとも迷いましたが、入門編として、ここではブラディ・ドール シリーズを紹介したいと思います。
(個人的には、老犬シリーズが好きです、笑)
その中でも、第一作の【さらば、荒野】を紹介するのは、最初から読んでもらいたいからです。
理由はただ、それだけです。(笑)
『ブラディ・ドール』というのは、作中に出てくる、地方都市(N市)にある唯一の高級会員制クラブのことです。
経営しているのは、主人公の川中良一です。
『タフな男』という言葉が、これほどしっくりくる主人公もいないのではないかというくらいタフです。
二作目以降、超人的な活躍をする川中ですが、この第一作ではまだそれほどでもありません。
でも、それだけに生々しさがより伝わってくるので、個人的には第一作の雰囲気が好きです。
本作は、N市という地方都市が舞台で、ある企業秘密を巡り、ヤクザや市長を巻き込んで繰り広げられる抗争が展開します。
詳細は読んでもらうのが一番良いので省きます。
あ、一つだけ言うと、とにかく人が死にます。(笑)
また、本作にはシリーズを通した名脇役のキドニーと藤木が登場します。
他のオススメ作品
冒頭でも述べましたが、多すぎて紹介しきれません。
その中でも是非、紹介したいのは以下の四作品。
【逃がれの街】【明日なき街角】【眠りなき夜】【檻】は、読んで損はないと思います。
個人的には、【いつか時が汝を】も好きです。
この作品は多分、マニアにしかわかりませんけど。(笑)
あと、有名どころでいうと、ホットドッグ・プレスという雑誌で連載していた人生相談コラムをまとめた、【試みの地平線】でしょうか。
『ソープに行け』という名言(?)が、当時としては衝撃的でしたね。
余談の枠を超えた余談
で、余談は承知の上で、更に紹介させてもらうと、時代小説もハードボイルドにしてしまうのが、北方先生の特徴です。
時代小説ではなく、歴史ハードボイルドとでも言うべきでしょうか。
【三国志】【水滸伝】【楊令伝】【岳飛伝】【楊家将】などの中国を舞台にした長編シリーズが有名です。
しかし、個人的には、日本の南北朝時代を舞台とした、北方太平記シリーズが好みです。
中でも最もオススメの作品は、【破軍の星】です。
いや、わかってます。
【武王の門】の懐良親王の格好よさ、【悪党の裔】の赤松則村や【道誉なり】の佐々木道誉の人格的魅力、【楠木正成】の一途さも本当に好きです。
しかし、それでも僕は【破軍の星】を推したいんです。
北畠顕家を主人公とした、この作品を何度も読み返しました。
北方先生本人が述べている『滅びの美学』が、これほどまでに色濃く鮮明に出た作品はないと思います。
歴史ハードボイルドのオススメをどれか一つ挙げろと言われたら、僕は迷いなく【破軍の星】を推します。
今見たら、文庫本で478ページと分量的にもすぐ読めますし。
(他の作品、特に中国ものになると、水滸伝なんかは全19巻、三国志ですら全13巻あるので気軽には読めません)
あ、あと幕末好きには、土方歳三を主人公とした【黒龍の柩】もオススメですよ。
う~ん、北方先生の作品は多すぎて、どれを紹介したらいいのか途中でわからなくなりました。
しかも、恐れ多いことですが、本人の作風や創作スタイルについても書きたいことが山ほどあって…。
その辺は別記事に譲りたいと思います。
大沢在昌 【新宿鮫】(新宿鮫シリーズ)
日本人のハードボイルド作家と言えば、必ず名前が挙がる作家さんです。
そもそもご本人がレイモンド・チャンドラーを読んで、ハードボイルド作家になろうと考えたそうですから筋金入りですね。
大沢先生の作品はとにかくキャラクターが素晴らしいんです。
それもそのはず、ご本人の創作スタイルが独特です。
連載を始めるとき、核となる登場人物を数人用意して、ストーリーをあまり考えずに書きだすんだとか!!
登場人物のキャラクターが立って(いわゆるキャラ立ちですね)いれば、話は勝手に進んでいき、結末に至るそうです。
もはや名人芸ですね。
僕が真似したら中盤以降グダグダになって、小説の態をなさなくなると思います。(笑)
で、話を元に戻して【新宿鮫】です。
一匹狼の刑事、鮫島が主人公です。
本来、一刑事があれほどの単独行動はとれないんですが、まあ、その辺は小説の設定ですから細かいことを言うのは野暮というものです。
今となってはやや陳腐な設定ですが、それはこの作品を読んで影響を受けた人たちが真似をしたからということもあるでしょう。
また、大沢先生本人がインタビューでおっしゃっていましたが、【新宿鮫】はあまりに有名になりすぎて、そのせいで読まない人がいる、と。
つまり何となく『読まず嫌い』になっている人がいるようです。
実は僕もその一人で、新宿鮫を初めて読んだのは20代の半ばでした。
実際、読んでみたら犯人の設定も斬新で、とてもオモロイ作品でした。
騙されたと思って読んでみてください。
他のオススメ作品
40年近くのキャリアがありますから、作品が多すぎてピックアップするのが大変です。
映画化もされ(ちなみに映画はイマイチです)、大ヒットした【天使の牙】(明日香シリーズ)を挙げないわけにはいかないでしょうね。
SFハードボイルドという、個人的には大好きなジャンルの作品です。(そんなジャンルあるのかということはおいといて)
若干、ラブロマンスが入るので、苦手な方は要注意です。
それから、【ザ・ジョーカー】(ジョーカーシリーズ)は連作短編集となっているので、読みやすいです。
個人的には、坂田勇吉シリーズの【走らなあかん、夜明けまで】、狩人シリーズの【北の狩人】、【撃つ薔薇 AD2023涼子】、【眠たい奴ら】辺りが好きです。
最近の作品については、フォローしきれていません。
すみません。
桐野夏生 【顔にふりかかる雨】(ミロ・シリーズ)
僕は女流作家の本を(相対的に)あまり読んでいません。
小説家を目指していたときに、勉強のためにそれなりには読みましたが、どうも肌に合わない作品が多かったという印象です。
これは好みの問題なので、仕方ありません。
しかし、桐野先生の作品だけは別です。
というより、別格です。
ある意味、国内のどんな作家よりもハードボイルドかもしれません。
そんな桐野先生のハードボイルド作品、【顔にふりかかる雨】は必見です。
詳細は大胆に省きますが、ハードボイルドミステリーとしての作法をしっかり押さえながら人物描写もしっかりしていて、入門書として最適かもしれません。
謎解き自体は複雑なものではありませんが、それがしっかりと雰囲気と結びついていて、それでいて感傷的な部分も入っていて作品としての『佇まい』がとても良いんですよね。
レイモンド・チャンドラーが好きな人には、オススメ中のオススメです。
他のオススメ作品
ミロ・シリーズ第二弾の【天使に見捨てられた夜】も登場人物の苦悩がしっかりと描かれていて良かったです。
また、個人的にはミロ・シリーズより好きなのが【ファイアボール・ブルース】です。
かなりハードボイルドです。
いや、むしろミロ・シリーズよりこっちを読んでほしい。
謎解き自体はあまり複雑なものではありません。
しかし、主人公の火渡抄子(ひわたりしょうこ)の存在がとにかくハードボイルドなんです。
また、ミロ・シリーズの村野ミロの父親を主人公とした、【水の眠り 灰の夢】もオススメできます。
それから、桐野先生の他の作品では、【OUT】や、実際に起こった事件(東電OL殺人事件)を題材とした【グロテスク】が好きでした。
これらはハードボイルドというよりノワール(暗黒小説)に分類されると思いますが、めちゃくちゃオモロイです。
原寮 【そして夜は甦る】(沢崎シリーズ)
原寮先生の作品は全部読みました。
というのも、沢崎シリーズ第一作の【そして夜は甦る】から数えて、5作品しか出版されていないからです。(他にエッセイ集)
【そして夜は甦る】【私が殺した少女】【天使たちの探偵】【さらば長き眠り】【愚か者死すべし】の5作品です。
レイモンド・チャンドラーの強い影響を受けていると公言し、敬意を表明している作家さんです。
チャンドラーのフォロワーの中で、日本国内では唯一成功した人と言ってもいいと思います。
(余談ですが、チャンドラー好きのことをチャンドラリアンと言います)
賞をとっていればいいというわけではありませんが、デビュー作で山本周五郎賞、二作目で直木賞とファルコン賞をとっていますから、知らない方にもその完成度の高さがわかると思います。
フィリップ・マーロウが日本人だったら、きっとこんな感じなんだろうなと思わせてくれるのが主人公の沢崎です。
原先生ご本人が船戸与一先生との対談で『ある意味ではマーロウをモデルにしてます』とおっしゃっている通り、マーロウ的な主人公です。
ただの模倣ではなく、それを原先生がご自分の中で昇華して組み立て直していると言うべきでしょうか。
物語は西新宿にある沢崎の事務所から始まります。
既に一行目の文章がチャンドラー的なので、チャンドラリアンはこの時点で話に引き込まれます。(多分)
ネタバレ防止のため、内容には深く踏み込みませんが、探偵である沢崎が行動することで事件の全貌が徐々に見えてくるという王道のハードボイルド探偵小説です。
ストーリーテーリングが上手いため、長さを感じさせず、一気に読めますよ。
このハマり方をしてしまうと、他の作品も読みたくなりますが、ご安心ください。
これ以外には4作品しかありませんので、比較的容易に読めます。
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他のオススメ作品
【私が殺した少女】【天使たちの探偵】【さらば長き眠り】【愚か者死すべし】の4作品全部ですね。(笑)
個人的には、同作より【さらば長き眠り】の方が好みです。
黒川博行 【疫病神】(疫病神シリーズ)
関西弁のハードボイルドと言えば、黒川先生を外すことはできません。
ハードボイルドというより、ジャンルで言うなら【疫病神】はノワール(暗黒小説)に入るんでしょうが、敢えて紹介します。
なぜならオモロイからです。(笑)
主人公の二宮(建設コンサルタント)が、ヤクザや裏社会の人間たちと関わり合いながら『シノギ』をしていくというのが疫病神シリーズの基本ラインです。
怖い怖いと言いながらも、やせ我慢をして立ち向かっていく姿がハードボイルドと言えるでしょう。(と牽強付会しておきます)
建設コンサルタントという仕事柄、裏社会とのつながりは避けられないんでしょうが、それにしても二宮は色んなことに巻き込まれ過ぎです。
それもこれも二宮の欲の皮が突っ張っているからなので、自業自得とも言えるんですが。
また、(嫌々ながら)コンビを組むヤクザ、二蝶会の桑原とのコンビは秀逸で、全編を通して大阪弁での軽妙な掛け合いがたまらなく魅力的です。
【疫病神】で僕が特に素晴らしいと思ったのはサイ本引き(博打)をしている場面です。
黒川先生ご自身がかなりのギャンブラーということもありますが、このシーンは臨場感もあって本当に印象的でした。
(手本引きにしなかったのは説明がもっと面倒臭くなるからではないかと推測しています、笑)
他のオススメ作品
疫病神シリーズは全部オススメです。
【疫病神】【国境】【暗礁】【螻蛄】【破門】の5作品です。
シリーズ第二作の【国境】では北朝鮮に行ってしまって、その後のシリーズはどうなるのかと思いきや【暗礁】と【螻蛄】では国内で話が進みます。
最新作の【破門】では、マカオでギャンブルをするシーンがありますが、ここでも詳しくルール説明をしてくれます。(笑)
去年ようやくドラマ化されていますが、疫病神シリーズのオモロさに気づくのが正直遅いという印象を受けました。
なぜこれまで映像化されなかったのか不思議なくらいです。
ドラマはまだ見ていないのでコメントを差し控えますが、桑原役が北村一輝さんでは格好良すぎる気がします。(笑)
他のオススメ作品は、【二度のお別れ】【てとろどときしん】(大阪府警シリーズ)、【文福茶釜】辺りがオススメです。
大阪府警シリーズ、黒豆コンビの掛け合いもオモロイですよ。
他のハードボイルド(とその周辺の)作家さんたち
紹介したい人が多かったので、こちらに記しておきます。
小鷹信光 【探偵物語】
ハードボイルド作家というより、アメリカのハードボイルド研究者、評論家、翻訳家です。
ダシール・ハメットの【マルタの鷹】をはじめとして多くの作品を翻訳されています。
日本のハードボイルドを語る上で、名前を出さずにはいられない功労者です。
国内ハードボイルドを語る人が小鷹先生の名前を知らなければ、それはモグリと認定して差し支えありません。
松田優作さん主演のドラマ【探偵物語】の原案者でもあります。
(※ドラマ【探偵物語】は企画原案を小鷹先生が執筆し、ドラマ化された後に小説版を書いていますので、厳密に言うと、小説版はドラマの原案ではありません)
逢坂剛 【裏切りの日日】(百舌シリーズ)
ハードボイルドというと、逢坂剛先生の【裏切りの日日】(百舌シリーズ)を挙げずにはいられないでしょうね。
ドラマや映画にもなって大ヒットしましたね。
【裏切りの日日】は話が短いのもいいです。(笑)
また、【禿鷹の夜】(禿鷹シリーズ)も個人的にはオススメです。
藤原伊織 【テロリストのパラソル】
藤原伊織先生の作品は個人的な好みから外れていたので、今回は選外。
でも、【テロリストのパラソル】は文章に引き込まれる感じがあって読んでいて心地よかったです。
船戸与一 【砂のクロニクル】
船戸与一先生の作品は冒険小説の色が濃すぎるので外しました。
【砂のクロニクル】に代表されるように、海外を舞台にしたスケールの大きな物語が特徴です。
志水辰夫 【餓えて狼】
これもジャンルとしては冒険小説に入るんでしょうが、紹介せずにはいられなかったので、記しておきます。
択捉島(だけではありませんが)が舞台、主人公が元クライマーという他ではありえない設定です。
何より文章のリズムが素晴らしいです。
東直己 【探偵はバーにいる】(ススキノ探偵シリーズ)
ハードボイルドの道具立てがしっかり揃っていて、ハードボイルド好きな方には満足いただけると思います。
どちらかというとハードボイルドを読み慣れた頃に、手に取るのが正解だと思います。
このシリーズは、大泉洋さん・松田龍平さん主演で、【探偵はBARにいる】として映画にもなっていますね。
とはいえ、映画ほどは軽い感じではなく、(どちらも好きですが)もっと気怠い感じの雰囲気で話は進んでいきます。
※ちなみに映画第一作目は、ススキノ探偵シリーズ第二作目の【バーにかかってきた電話】が原作です。
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ハードボイルドではないけどオススメ
ハードボイルドに近いところで言うと、上述したノワール(暗黒小説:正確にはロマン・ノワール)やピカレスク小説(悪漢小説)に分類される作品群があります。
それでいうと、馳星周先生の【不夜城】は外せないし、【漂流街】なんかも狂っていて好きです。
東野圭吾先生の【白夜行】など一連の作品も入ってきそうですね。
また個人的にオススメなのが、梁石日先生の【血と骨】です。
暴力的表現が多いので苦手な方は要注意ですが、大阪のコリアン集落を舞台にした、家族をテーマにした濃密な話です。
ビートたけしさん主演で映画にもなっていますね。
で、【血と骨】と同じ舞台、近い時代背景で書かれたものが、開高健先生の【日本三文オペラ】です。
これに至ってはハードボイルドでもノワールでもないんですが、オモロかったので名前を挙げておきます。
また、ノワールで言うと、新堂冬樹先生の【溝鼠】は外せませんね。
今風に言うと、ゲスの極みです。(笑)
新堂先生の一連の作品にハマると、他の作品が軽く見えてきますから要注意です。
それから、花村萬月先生の【笑う山崎】も主人公であるヤクザ、山崎の人物描写がとても素晴らしく、印象に残っています。
あと、深町秋生先生の【果てしなき渇き】は、主人公藤島の救われなさが好きでした。
最近のもの
最近、あまり時間がなくて小説を読めていません。
そんな中で、ハードボイルド的でオモロイと思ったものを2つだけ挙げておきます。
誉田哲也先生の【ストロベリーナイト】と、柳広司先生の【ジョーカー・ゲーム】です。
【ストロベリーナイト】はドラマや映画にもなっていますので、有名ですね。
【ジョーカー・ゲーム】はハードボイルドとは言えないのでしょうが、オモロかったので紹介しておきます。
最後に
最初の方で、ハードボイルドとは、
『自分と約束し、それを頑なに守る姿勢、態度』
だと定義づけているのに、この記事はあっさりハードボイルドの枠を超えてしまっています。
最後の方は特に。
自分で定義づけておいて、あっさりその枠をはみ出すという体たらく…。
そういう意味で、僕はハードボイルドではありませんね。(笑)
でも、いいんです。
ハードボイルドであろうとなかろうと、オモロイ(※)小説が読まれれば、それに越したことはないからです。(と自己弁護)
※関西弁のオモロイは『興味深い』とか『心惹かれる』という意味も含みます。
この記事内に名前を出した小説は、(好き嫌いはあると思いますが)どれをとってもオモロイものばかりです。
これだけは自信を持って言えます。
是非、一つの指針としてご活用ください。
純文学小説でもこういった記事を書きたいんですが、幅が広すぎて作品を絞るのが大変ですね。
どう括ろうかしっかり考えてから記事にしたいと思います。
では、良き読書ライフを!!
See you~
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