【短編小説】浮気なん? 旦那と妻の浮気で嫌いと大好きが交錯してむかつくけど、わからないので死ぬ寸前まで行った件 ~第一話
【企画】
キーワードをつなぎ合わせて小説にしてみるの巻。
【企画意図】
『旦那』でキーワード検索したらカオスだったので、上位10件をつなぎ合わせて小説にしてみる。
【お題】(『旦那』でのキーワード検索上位、11件)
1. 浮気
2. なん
3. 旦那 が 何 を 言っ て いるか わからない 件 (※これはアニメ作品のタイトルらしいので省く)
4. 旦那
5. 死ぬ
6. 件(←これも上の作品からの派生かもしれないが、ひとまず入れておく)
7. 妻 の 浮気
8. 旦那 むかつく
9. 旦那 が 嫌い
10. 旦那 大好き
11. わからない
では、本編をどうぞ。
「きょえ~~~~~~!!」
という自分でも聞いたことがない叫び声を出してしまったのにはワケがある。
あたしは今、旦那の上着のポケットに『あるもの』を発見してしまった。
これは何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは何だ…。
十回くらい口内で呪文のように唱えてみたけど、誰かが答えてくれるわけでもなければイフリートのような召喚獣が出てくるわけでもない。
あたしは『落ち着け』もとい『落ち着くな』と自分に言い聞かせた。
それはそうだろう。
これが落ち着いていられますかってんだ。
だって、旦那の上着のポケットから女の名刺が出てきたんだよ、奥さん。
いや、ほんと落ち着け、あたし。
今は亡きみのもんたの真似をしている場合じゃない。
違う違う。みのさんはまだ死んでいない。
というか、一人漫談していても、どうにもならない。
ちょっと目をつぶってみよう。
少し待って目を開けたときには、そこにはもう忌まわしきものは…。
やっぱりあった!!
「きょえ~~~~~~!!」
散々叫んだ後、あたしはダイニングキッチンのテーブルに、女の名刺こと『青天の霹靂召喚カード』を置いて、椅子に座った。
叫びすぎて疲れたのと、今後どうするかを考えるためだ。
メモ帳を取り出し、とり得る選択肢を書き出す。
こうやって何でも文字に起こすのは、学生時代からのあたしの癖だ。
結局、思いついた選択肢は五つになった。
そして、それぞれに付随する問題点も横に書いてみた。
① 旦那を泳がせて様子を見る ⇒ 我慢できない
② 誰かに相談する ⇒ 相談する相手がいない
③ 探偵もしくは興信所に調査を頼む ⇒ かなりのお金がかかる(?)
④ 問い詰める ⇒ シラを切られるのでは?
⑤ 問答無用で離婚する ⇒ 離婚後のことを考えないと(自活手段、住む場所など)
こうやって考えてみると、それぞれに問題点があることに気づく。
多分、①がまずとるべき行動なんだろうけど、あたし自身が我慢できない。
絶対に皮肉を言うだろうし、下手したら① ⇒ ④と進み、⑤に向かってしまう。
⑤離婚…。
離婚したいわけじゃない。
だって、まだ結婚して一年しか経っていないから体裁が悪いし、今の生活を手放したくない。
旦那のことも嫌いじゃないし、というか割と好きな方だし、愛されている実感もあるし…。
とにかく離婚は避ける方向でいきたい。
でも、浮気は我慢できないし、許せないし、もし本当に浮気をしているのなら離婚…。
いや、やっぱり離婚はしたくない。
でもでも、子どもがいないのが幸いっていうか、あたしもまだ若いから再婚ができるかもっていうか…。
いや、やっぱり離婚はいや。
色々と考えていたら頭が痛くなってきた。
何だか熱が出てきたような気もするし。
しかも結局、答えが見つからない。
というより、集中して考えられない。
今日の夕飯のこととか、確か郵便物が明日来ることになってたとかどうでもいいことばかり気になってしまう。
多分、自分にとって不都合すぎて、脳がそれを考えることを拒否してるんだろうなんて冷静になってみても、結局答えは出てこない。
当たり前だ、考えてないんだから。
これ以上、粘っても無駄だ。
そう思って、消去法でいくことに決める。
まず⑤の離婚は外れる。
で、①の泳がせると、④の問い詰めるは、恐らくノータイムで⑤に繋がる。
気持ちが昂っているから、間違いなく余計なことを言ってしまうに違いない。
となると②の誰かに相談、もしくは③の探偵に相談になるんだけど、探偵はお金がかかるから避けたい。
しかも、家計は旦那に任せているから、家のお金は自由にならない。
結婚前に働いていたときに貯めたお金があるけど、200万円しかないし、もし万が一ってときのためにとっておきたい。
ん? 万が一って何だろう。
旦那と離婚して地元に帰るっていう状況か。
あの、頭の固い両親と同居するのはもうごめんだ。
でも、離婚したら当分はそうするしかないのか。
独り暮らしは金銭的に無謀だ。
無謀むぼうムボウ、失望、絶望…。
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気づいたときには、スマホを手に取り、ある番号を呼び出していた。
相手は先日、偶然、街で出会った高校時代の男友達だ。
あたしは地元から離れているせいで、学生時代の友達とは出会うと思ってなかったから、本当に驚いた。
『もしもし?』
スマホから眠そうな声が聞こえた。
「あ」
『お~、どうした?』
「え、どうしたの?」
『いやいや、おまえが電話かけてきたんだろ』
「あ、そうか。昼間だから電話に出ると思ってなくて。寝てた?」
『ちょうど外回りの休憩中。ってか、暑いから車の中ですずんでるんだけど』
「サボってるってわけね」
『有り体に言うとそうだな』
「おっかしい。昔から全然変わってない」
サトシは昔からそうだった。
しょっちゅう授業をサボって、屋上とか校庭の隅で寝ていた。
でも、要領が良いし、明るい性格だから担任の金田先生に気に入られていた。
生活指導の体育教師たちには目の敵にされていたけど。
「昔、体育の仲田先生に追いかけられたの覚えてる?」
笑いをこらえながら言った。
『え? おまえ何かやったっけ?』
「サトシが、よ。ほら、校庭のバスケットゴールの裏でビニールシート敷いて寝てて…」
『ああ、あったな。五丁目の公園にいたホームレスのおっちゃんにもらったビニールシートな。ピカチュウの絵が描いてあったやつ』
「そうそう。仲田先生が怒って、それを振り回しながらあんたを追っかけて」
こらえきれず、あたしは吹き出した。
『俺、必死に逃げたからな。校門出たとこで振り切ったけど、結局、駅前のマックで飯食ってるとこ捕まってさ。ちょうど注文したセットが出てきたとこだったんだぜ?』
「バカだよねえ」
『腹減ってたんだよ。あのとき仲田のせいで大好きなてりやきマックバーガー、一口も食えなかったからな。羽交い絞めにされたからポテトに顔突っ込んで二、三本くわえてさ』
「ほんと、バカ…」
笑いすぎて、おなかが痛くなった。
校庭を斜めに走って逃げるサトシと、その後を追いかける仲田先生の姿が目に焼き付いていて、八年経った今も鮮明に思い出せる。
『でもさ』
「ん?」
『おまえの方こそ、天然なとことか変わってねえな』
「天然じゃないもん」
『天然だよ。全然変わってねえ』
「そんなことないもん」
『んで、何か用だったか?』
「あ、いや、そんなんじゃなくて」
『何だ。「暇電」かよ。あ、ところで、おまえ昼飯食った?』
「え? いや、まだだけど」
『じゃあさ、今から飯行かね?』
「いいけど。でも…」
『ああ、金なら心配すんな。おごるよ』
「そんな心配してないし」
『じゃあ、イオンで待ってるわ。俺、今、そこの駐車場にいるから。着いたら電話してよ。じゃあ』
「あっ、サト…」
言いかけたときには電話が切れていた。
あたしはスマホの画面を見ながら、少しの間、茫然としていた。
何だか、頭がうまく回らない。
いやいや、そんなことじゃ駄目だ。
しっかりしろ、あたし。
ところで、どうしよう。
学生時代のノリで誘いに乗ってしまったけど、あたしはこれから出かけるんだろうか。
朝、銀行とスーパーに行ったから化粧はしている。
でも、さっき取り乱したときに汗をかいたし、出かけるんだったらシャワーを浴びたい。
こんな格好じゃ、サトシに会えな……、って、落ち着けあたし。
相手はサトシだし。
別にオシャレする必要ないし、何だったらすっぴんでも大丈夫だし。
それに、そもそもあたしがサトシに電話したのは相談しようと思ったからだった。
こんなこと相談できる友達が、今のあたしにはいない。
地元に小学校のときの親友はいるけど、何となく疎遠だし、電話をかけたらきっと近況報告だけで終わってしまう。
だから、つい最近、偶然再会した高校時代の友達、サトシに話を聞いてもらおうと思って電話をかけた。
久しぶりにおなかを抱えて笑って、それだけでも少しスッキリした気がするけど。
どうする?
ちょっとだけ考えよう。
うん、別に悪いことじゃない。
学生時代の友達に会うだけだし。
しかもランチするだけ。
夜のお店に行ってる旦那より遥かに健全だ。
あたしだって、たまには少し遊んでも全然悪くないと思う。
毎日、家にこもって、たまの外出は近所だけだと、干からびてしまう。
よし、出かけよう。
旦那が帰って来る前に戻ってれば何も問題ない。
サトシに色々聞いてもらおう。
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