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ウェブ狼  第三十三話 ~落下~

ゴミ収集所
By: Bart Everson

ウェブ狼 目次はコチラ

前回(ウェブ狼 第三十二話 ~再登場~)はコチラ

人物相関図(クリックでポップアップ)

 

「えらいタイミングの良いこっちゃ」

ミソジはチャイムの音を聞いて言った。

「おまえがここに来て、すぐに入って来なかったのは援軍を呼んでいたからだ」

杉が確信めいた口調で言った。

「ってことは?」

それなりの人数が揃ったってことだろうな」

杉がそう言って鼻を鳴らした。

「俺は捕まるようなこと、何もしてへん」

「奴らの目当ては俺だ」

「せやけど、あんたの居所は…」

「どうやって知ったかはわからねえ。おまえの携帯電話が盗聴されてるか、おまえ自身が盗聴されているか。もしくはどこからか情報が漏れたか…」

「俺が?」

ミソジはスマホをポケットから取り出すと同時に、ジャケットを脱いで、各ポケットを調べた。

が、どこにも不審な機械は取り付けられていなかった。

 

「トシちゃん…」

奥の部屋に戻って来たタイゾウが、不安げな顔を隠さずに言った。

「警察か?」

「多分、刑事だと。スーツを着た男が二人、ドアの前に…。どうしよう?」

「おい、ミソジ。逃げるぞ

杉が早口で言った。

「なんで俺が?」

「おまえ、俺と無関係だと言い張ってんだろ、警察に。違うか?」

「言うてるな」

「だったら、今、俺と一緒にいるとまずいんじゃねえか? ポリに嘘をついてるってことだ」

「そんなつもりあらへん」

「おまえにそのつもりがなくても、ポリは疑いを強める。これまで話したこと全てが嘘だと思われかねん」

「警察もアホちゃう。そうは思わへんやろ」

「どうだかな。可能性は十分にあると思うぜ」

「可能性の話を始めたら、キリないで」

「言葉遊びしてる暇はねえぞ、ミソジ。どうする? 俺と一緒に逃げるのか? それともここに留まってポリに捕まるのか?」

「なんで、その二択になるねん」

「じゃあ、おまえはここにいて、やつらに捕まれよ。そして、今以上にややこしいことに巻き込まれるんだな」

杉が肩をすくめた。

「先輩…」

瞳が心配そうにこちらを見上げてくる。

 

再び、チャイムが鳴った。

「くそっ」

ミソジは歯噛みして、タイゾウを見向いた。

「裏口はどこや? タイゾウ」

「そっちの…」

「裏口なんかポリがいるに決まってる」

杉がタイゾウの言葉を遮った。

「ほな、どないしたらええねん」

「ここから出る」

杉が自分の背後を親指で指し示した。

「え? 窓から?」

ソファに座っていた瞳が立ち上がって言った。

「お嬢ちゃんはやめとけ。怪我されたらかなわん。それに疑われてんのは、この男だけだ」

「俺は怪我してもええんかい」

「なんで怪我する前提なんだよ」

「あんたが言うたんやろ。そら、怪我もするわ。三階やぞ、ここ」

「ここの真下にはゴミ捨て場がある」

杉が口の片端を持ち上げて言った。

「せやから?」

「察しの悪い奴だな。そこに落ちればクッションになるだろ」

「ゴミの中に危険物があったらどないすんねん。瓶とか」

「そのときは運が悪かったと…」

「思えるわけない」

ミソジは言下に否定した。

「じゃあ、やめるか。別にいいぞ。おまえがやめても俺は行くし」

「くそったれ」

ミソジは言って、窓に早足で向かった。

「よし、やるんだな?」

「俺は面倒を避けるために、一時的に警察から逃れるだけや。あんたと一緒に行くわけとちゃう」

ミソジは杉を指差した。

「同じことさ」

「ちゃう」

 

ミソジは窓を開けた。

二メートルと離れていないところに、隣りのビルの壁があった。

下を見る。

ビルとビルの間の狭い空間に、ポリ袋が積まれていた。

しかし、上からでは、どの程度の高さまで積まれているのか把握できない。

 

室内にはチャイムが執拗に鳴り響いていた。

「時間ないぞ。ほら、早く行け」

「なんで俺からやねん」

「先に逃がしてやろうっていう親心だろうが」

「嘘つけ。俺を先に行かせて様子見するつもりやろ」

「往生際悪いぞ、ほれ」

杉が背中を押す。

その力が思っていたより強かった。

「行ったらええんやろ。押すな」

「押すなっていうのは『押せ』ってことだな」

「こんなときに冗談はやめろ。ほんまに押すな。今、行くから」

ミソジはそう言って、窓枠に座り、脚を外に出した。

 

思っていた以上の高さに、怖気づきそうになったときだった。

「よし、行け」

その言葉と共に、背中が押された。

「あ…」

 

着地まで一瞬。

腕でバランスをとろうとするのが精一杯だった。

 

脚から落ちた。

バランスを崩して尻もちをついた。

ゴミが、クッションの役目を果たしてくれた。

立ちあがろうとすると、腰の高さまでゴミの山に埋もれた。

 

そのとき、数人の声が耳朶を打った。

「わっ」

「降りたぞ」

声の方向に目をやると、ゴミをかき分けて、制服の警官が数人迫って来ていた。

こちらに手を伸ばしてくる。

ミソジはそれに背を向けて逃げ出そうとしたが、絡めとられるようにして押さえ込まれた。

「臭っ」

ゴミの刺激臭が鼻の奥をついた。

この臭いはとても耐えられない。

そう思ったとき、再び歓声とも怒号ともとれる声が聞こえた。

 

「どけ、危ねえぞ」

大声と共に、杉が上から降ってきた。

 

身体をつかんでいた手の力が緩んだ。

ミソジはその瞬間を逃さず、手を払いのけた。

四つん這いの状態で少し進み、短距離ランナーがスタートするような姿勢で走り出す。

ゴミをかき分け、道路に出た。

陽光がやけにまぶしく感じられた。

 

「こっちだ、ミソジ」

声の方を見向く。

いつの間にか先に走り始めていた杉が、肩越しに振り返って言った。

ミソジはその背中をがむしゃらに追った。

背後から追ってくる人の気配が感じられた。

声が追って来た。

が、それを確認する余裕はなかった。

 

 

「何、とか、逃げ、切ったか」

杉が肩で息をしながら言った。

 

ミソジと杉はマンションの駐車場に身を潜めていた。

そこは半屋内になっていて、ひとまず身をひそめるには格好の場所だった。

車の側面を背にして座り込んだ。

先ほど渡った南海汐見橋線の踏切の音が聞こえてきた。

 

「おい」

ミソジは荒い呼吸の中、杉に向かって言った。

「あんた、俺をダシにしたやろ」

「何の、話だ?」

「俺を先に跳ばせて警察の目を引いといて、自分は逃げる気やったろ」

「そんなこと、たくらんでねえよ」

「いや、そうとしか、考えられへん」

ミソジは額に浮いた汗をジャケットの袖で拭った。

「仮にそれが事実だったとして、問題があるのか」

「認めるんやな」

「いや、『仮に』って言っただろ」

「跳ぶ直前に、あんた自身が言ってたことと矛盾が生じる」

「どんな?」

「逃げないと捕まるってことや。逃げようとしても捕まりかけた。あんたのせいで、な」

「実際は捕まってねえ。違うか?」

「それは結果論や」

「世の中、結果が全てだ」

「論点をすり替えるな」

ミソジは真っ直ぐに杉を見た。

「なあ、ミソジよ」

束の間、視線を合わせた杉が表情を緩めた。

「過ぎたことはいいじゃねえか。未来志向で行こうや、何事も」

「あんたみたいな人間が、世の中の問題を単純化して本質をとらえにくくするんだろうな」

「誉め言葉として受け取っとくよ」

杉が首を軽く横に振ってから続けた。

「で、どうする? これから」

「小山を頼る」

ミソジは即答した。

「なるほど。こういうときに頼れる男、小山くんな」

「どう思う?」

「いいんじゃねえか?」

杉が頷いた。

 

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喫茶店で一服したいという杉を引きずるようにして歩き、タクシーを拾った。

住吉区長居へ向かう。

途中、尾行の存在が気になったが、それらしき車はついてこなかった。

 

「えらい早いお帰りやな、大将」

小山が杉を見るなり、そう言った。

「あんたのことが恋しくなってね」

杉が両腕を広げてみせた。

「昔から変わった人間にモテるよな」

ミソジは昔を思い出して笑った。

「おかげさまで、男女問わず、な」

言いながら、小山が事務所を指差した。

「そっちで話を聞こう」

小山の事務所のソファに座った。

前回、ここに来てからまだ丸一日も経っていない。

だが、果てしなく長い時間が流れたような気がしていた。

しゃべりながら、ミソジは重い疲労を感じていた。

 

「…というわけやねん」

「なるほど。ドジ踏んだな、トシ」

小山が煙草に火をつけながら言った。

「ああ、面目ない」

「俺にも謝れよ、ミソジ」

「そうやな」

ミソジは隣りの杉に向かって言った。

「謝ってねえだろ、それ」

「そんなことない」

「おい」

「それはさておき、やな」

小山が間に入った。

「ここに匿うことはでけへんけど、必要なら場所は提供する」

「ありがてえ。やっぱ、小山っちは頼りになるぜ。どこかの誰かさんと違って」

「とはいえ、普通の宿はとれへんから、倉庫みたいなところになるで」

「普通の宿はとれへんって、なんでや?」

ミソジは言った。

「どこからタレコミがあるかわからへんからや」

「大袈裟じゃねえか?」

「そうでもない。なぜなら、俺もあんたを探し出したやろ」

「あれもタレコミなのか?」

「情報源を明かすことはでけへんけど、協力者があってのことやからな」

「万が一の可能性を考えてってことやな、小山」

ミソジの言葉に小山が頷いた。

 

「で、これからどないするんや、杉」

ミソジは言った。

「ある男を探す」

ペットボトルの水を一口飲んで、杉が答えた。

「誰を?」

「弓森栄治」

「弓森? 死んだ由利子とは?」

「由利子さんの次男坊や」

杉が顔を歪めながら言った。

「何のために、そいつを探すんや」

「栄治が怪しいからに決まってるだろ」

「おい、もしかして…」

「俺は、弓森栄治が由利子さんを殺したに違いないと思っている」

 

 

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