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ウェブ狼 第三十二話 ~再登場~

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「まず、なぜ、あんたがここにいるのか教えてもらおうか」

大山探偵事務所のドアが開いて、杉を見つけるなりミソジは言った。

押しのけられたタイゾウが、よろめきながら自分の机に座った。

 

杉がいたのは、狭い応接スペースだった。

リラックスした様子で、ソファに腰かけている。

「なにを怒ってるんだ、ミソジ? 更年期か?」

杉が言った。

その顔には疲労の色が窺えたものの、表情は平静と変わらなかった。

「あのなあ…」

言いかけて、一旦言葉を切った。

「なんで、ここにおんねん?」

ミソジは同じ質問をしながら、杉の向かい側に座った。

後から入って来た瞳が、隣りに腰かける。

 

「小山君が見つけてくれたんだよ。詳しくは教えてくれなかったけど、知り合いのツテだって」

タイゾウが事務机の向こうに回り込みながら説明口調で言い、椅子に座った。

「小山が?」

「怖ぇよな。ルートさえあれば人なんて簡単に見つけ出せる。どれだけ隠れていても」

杉が心なしか愉快げに言った。

「見つかったのが、おまえのツレで良かったよ、ミソジ」

「タイゾウの事務所までは小山が?」

「そう。寡黙だけど、なかなか良い男だな、あいつは」

杉が笑みを浮かべた。

 

ミソジは一つ息をついた。

「ところで、あんた、追われてんのは知ってんのか?」

「知らなかったら逃げ回ってねえよ」

杉が自嘲の笑みを浮かべた。

「これまでどこにいた?」

「色々だな。宿無し金無し、貧乏暇なしってやつだ」

「随分とヤバイことになってるで。それは理解してんのか」

「ヤバイってのは? ポリさんのことか」

「それもある」

ミソジは頷いて、話を続けた。

「それ『も』ね。その辺は詳しく聞かせてくれるんだろ?」

 

「それはともかく、あんたは何をやったんや」

「何も」

杉が肩をすくめた。

「何もやってんへんわけないやろ」

「それが驚くことに、何もやってねえんだわ」

杉が大袈裟に両手を広げて見せた。

「何も?」

「つまり、俺は無実の罪を問われているってわけだ」

 

「遠回しに言ってる暇はないから聞くが…」

前置きをしてミソジは続けた。

「あんた、殺したんか? 弓森由利子を」

「その話なんだけどよ…」

杉がわざとらしくため息をついた。

「俺が由利子さんを殺す理由がどこにある?」

「いわゆる痴情のもつれ。ようある話や」

「テレビの見すぎだな、ミソジ。故人を悪く言うつもりはないけど、由利子さんは60を超えてた。俺と恋愛関係になる理由がどこにある?」

「その割にはいちゃついてたやないか。なあ?」

ミソジは瞳を横目に見た。

瞳が頷く。

 

「そういえば、箕面の喫茶店で会ったな。おまえら二人と」

「そのときの雰囲気を見てるから言うてんねん」

「ないない。相手は孫もいる歳やぞ」

杉が顔の前で手を横に振った。

「あんた、女なら誰でもいいんちゃうんか?」

「ひでえ言われようだな。俺は確かに博愛主義者だが、仕事関係の女性には一線を引いて付き合ってる」

「博愛主義の意味、間違ってますけどね」

瞳が口を挟んだ。

「言葉の定義はどうでもいいんだよ、お嬢ちゃん」

杉が瞳に向かって好色そうな笑みを見せた。

瞳はそっぽを向いて、それをかわした。

「あんたの職業倫理はどうでもええねんけど、無実やとしたら、なぜ追われてる?」

「こっちが聞きてぇよ。ポリが俺を容疑者に? ふざけやがって」

杉が吐き捨てるように言った。

「追ってんのは警察だけじゃなさそうやけどな」

「それがさっきの話か。そうらしいな」

「なぜ知ってる?」

「俺がそれを知ってたら、まずいことでもあるのか?」

杉がこちらを真っ直ぐ見つめてきた。

「いや」

ミソジは無意識に視線を逸らした。

「なるほど、ね」

杉が何度も頷きながら言った。

「なにが『なるほど』なんや?」

「おまえが俺を探してる理由ってのがわかった」

 

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「おまえが俺を探してるって聞いた。小山って男からな。だが、その理由がわからなかった。だってそうだろう? 俺を心配して、なんていう間柄でもねえしな」

杉が脚を組み替えながら続ける。

「つまり、ミソジ。おまえはどういうわけか、『あの話』を聞いてるってわけだ。違うか?」

「あの話?」

「とぼけなくていいぞ。俺にはもうわかっている」

「あんたに何がわかんねん」

「おまえのことなら何でも知ってる」

杉が訳知り顔で言った。

「悪い癖やな、あんたの。何でも知ってるように見せかけたがる」

「今はそんな話してねえだろ? 論点をずらすな」

杉が強い口調で言った。

ミソジは次にどう言うべきか、思案をめぐらした。

が、それよりも早くミソジが言葉を継いだ。

カードキーのことだろ?」

杉の一言が空中を漂った。

 

束の間、誰も言葉を発しなかった。

「図星みたいやから、勝手に話を続けるが…」

杉が腕を組んで言う。

「俺は、由利子さんが持ってたというカードキーがどこにあるか知らねぇ」

「じゃあ、誰が?」

「それは俺が聞きてえよ。いや、むしろ知らないといけねえ。自分のために。じゃないと…」

杉がそこで口をつぐんだ。

「あんたは、誰が自分を追ってるのかわかってるのか?」

「まずはおまえだろ、ミソジ」

杉がこちらを指差した。

「まあ、そうだな」

「否定しねえのか」

「今更やろ。そうや、俺はあんたを追っかけてた。カードキーを探すためにな」

「ってことは、由利子さんの息子から聞いたってことだな」

「そうや」

「やっぱりな。あの野郎」

杉が中空をにらみながら言った。

「隆明と面識があるんやな。いや、当然か」

「あの野郎はな、自分の親父が作った会社の、子会社の社長をやってやがるんだ」

「ああ、知ってる」

「あれは母親の口利きで、ようやく手に入れたポストなんだ」

「へえ」

 

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「息子の隆明は昔、傷害事件を起こしたことがあったらしい。その事件は親が金を積んで示談にしたんだが、親父から勘当されそうになってな。で、母親に泣きついたわけだ」

「事件を起こしたくせに、社長になったっておかしな話やな」

「母親ってのは、息子が可愛いもんらしいぜ」

杉がそう言って、続ける。

「会社を与えてもらう代わりに、妙な連中との付き合いをやめると約束させられたんだ。これを機に真人間になるっていうことで、な」

「妙な連中?」

「当時、隆明はチンピラみたいな奴らと付き合ってたという話だ。今で言う『半グレ』みたいな連中と」

「まさか、それって…」

「なんだ?」

「隆明は今もそういう関係の奴らと…」

「付き合いがあるだろうな。両親に泣きながら約束したのも忘れて。実際、俺は新地で見たことがある。どう見てもカタギとは思えない連中と飲み歩く隆明の姿を」

「そういうことか」

ミソジは言った。

「なんだ?」

「今朝、ヤバそうな連中に絡まれたんや。『この件から手を引け』って言われて…」

「その傷か?」

杉がミソジの顔を指差した。

「ああ」

ミソジは左眉の上の傷に手をやった。

瞳が付けてくれたガーゼとテープの感触があった。

 

「その手の連中に、隆明が依頼したと考えてもおかしくはねえな。いや、というより…」

杉が顎に手をやりながら続ける。

「俺でもそうする。奴らは手段を選ばねえ分、仕事が速いからな」

「隆明が俺に依頼したってことを、奴らがなぜ知ってる?」

「隆明が口を滑らせたんじゃねえか?」

「なるほど、そういうことか」

隆明がその連中にも同じ条件で依頼しているのだとしたら、そいつらがこちらに手を引かせようとするのもわからない話ではない。

何といっても、それなりの金が手に入るからだ。

ミソジはそこまで考えて、唇を噛んだ。

「さて、どうするか、な」

杉が顎をさすりながら言った。

 

「おい、杉。確認なんだが、あんた、本当にカードキーを持ってへんねんな?」

「持ってねえ。持ってたら今頃、箕面の屋敷に忍びこんでる」

「カードキーだけやと、『宝物庫』は開かへん」

「知ってるよ。だから弓森邸に忍び込んで、もう一つの鍵を探すんだ」

「鍵は隆明が持ってる」

「ほう?」

杉が目を細めた。

 

余計なことを言った。

そう思った。

 

「ところで、ミソジ。おまえら、俺が電話してからここへ来るまですぐだったが、近くにいたのか」

「さっきまでアメ村にいた」

「アメ村に?」

杉が眉をひそめた。

「そこで何を?」

「あんたの事務所に行ったんや」

「おい、それは本当の話か」

杉が組んでいた腕を解き、前のめりになった。

「嘘を言って何になる?」

「馬鹿野郎。ポリ連中がそこを張ってるのがわかんねえのか」

「見張ってるも何も、さっき刑事二人に会うたで」

「ホームラン級のバカだな。賢そうに見えて、大事なとこで抜けてやがる」

杉がそう言って絶句した。

「なにが…」

ミソジがそう言いかけたとき、来客を告げるチャイムが鳴った。

 

 

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