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ウェブ狼 第三十五話 ~ 通過 ~

食品工場 ミルク加工
By: zoetnet

ウェブ狼 目次はコチラ

前回(ウェブ狼 第三十四話 ~反転攻勢~)はコチラ

人物相関図(クリックでポップアップ)

 

検問? どこや?」

「そこだ」

ミソジは、杉が指差したところを見た。

制服の警察官が数人、歩道に、いた。

が、道を封鎖しているわけではない。

 

「こんなとこで検問するかね。渋滞になるだけじゃねえか」

「検問ちゃう、取り締まりや。シートベルトか、スピード違反」

「シートベルトか、携帯電話やろ」

杉が言った。

 

「しかし、よう気づいたな、あんた」

「ああいうの見つけるのが得意でな」

「隙あらば逃げ出すため、やろ?」

「バカ言え。俺は警察には常に協力的だ」

「へぇ」

「お上に逆らうと、ロクなことがねぇんだ」

「昔、そういう経験をした、ってこっちゃな」

「ふん」

杉が答えずに、鼻を鳴らした。

「言うても、停められへんやろ」

「だといいが、な」

「兵庫県警と大阪府警の仲の悪さは有名や。俺らの情報は回ってへんはずや」

「極悪人みたいな言い方だな」

「あんたは、な」

「うるせえよ。でも、情報が回ってる以前の問題だな」

「ん?」

「俺らが乗ってる車」

「あ」

「いつどこで職務質問を受けてもおかしくねえ」

「目立つし、しゃあないな。どうする?」

「どうするも何も脇道はねえし、バックしようにも後ろは詰まってる」

「つまり、どないもならん、と」

「シートベルトは?」

「してる」

ミソジは胸元に手をやって、シートベルトの感触を確かめた。

信号は青になっているが、取り締まりのせいか車の流れは遅かった。

 

ようやく進んだと思ったときだった。

「案の定だな」

杉が言った。

手前にいた警察官が車道に出て来て、停車するよう身振りで示している。

聞こえにくかったが、口にくわえた笛を鳴らしているようだ。

どないする? 停まるんか?」

「仕方ねえだろ」

警察官の誘導に従い、杉が歩道に車を寄せて停めた。

運転席側の窓を下ろす。

 

中を覗き込んできたのは、若い警察官だった。

まだ二十代半ばくらいだろうか。

「何ですか」

杉が言った。

「すみませんね、運転手さん。これ、あなたの車?」

団体の、ですね。」

「なるほど、そうでしょうね」

警察官が少し体を引き、車の側面に視線をやった。

「ご用件はそれだけ?」

杉がにこやかに言った。

「いや、今日はこの辺でデモをする届け出はなかった思うけど」

「うちの団体、知ってます?」

「自分は交通課ですからね。そういう関係のことは詳しくないですね」

警察官が首を横に振って続ける。

「で、今日は何かあるんですか?」

「何か、とは?」

「街宣活動とか、集会とか。そういったことですね」

「いや、友達を迎えに行くだけですよ。なあ?

杉がこちらを向いて言った。

「…ああ」

ミソジは口裏を合わせた。

「この車で? わざわざ?」

「いけませんか? 交通法に違反してないはずですよ。車検も通ってるし」

杉が窓に貼られた車検シールを指差した。

「まあ、そうですが…」

「俺ら急いでるんで、もう行ってもいいですかね? 友達待たせてるし」

「ちょっと待っといてもらえますか」

若い警察官がその場を離れ、少し離れたところにいる別の警察官の元へ歩み寄る。

二言三言交わしただけで、若い警察官は戻って来た。

「結構です。ご協力に感謝します」

警察官が杉にそう言った。

「いいえ、どういたしまして」

杉が窓を上げて、車を発進させた。

 

 

「感じの悪い奴だったな、さっきのポリ」

「そうか? どこが?」

「お前の方からは見えなかったかもしれねえけど、目つきが、つうか、雰囲気が、だな」

「警察の人間なんて、大体そんなもんやろ」

「そう言われると、そうだな」

杉がそう言って、アクセルを踏み込んだ。

車は商店街の一方通行の道を走っていた。

 

「で、どこに向かってんねん?」

「奴の会社だ。弓森栄治の

人物相関図(クリックでポップアップ)

日曜日やで? いてんのか?」

「さあ。だが、手がかりはそこにしかねえ」

「他の情報は?」

「顔を知ってる」

「そんなんで、よう来たな、ほんま」

ミソジは言った。

「俺が探して見つけ出すって言ったら、その通りになるんだ。人生そんなもんだ」

杉が自信ありげに言って、アクセルを踏んだ。

 

杉の運転するハイエースは大通りに出てから、左折し、西へ向かって十五分ほど走った。

「弓森栄治の会社はどこにあんねん」

ミソジは言った。

「あっちの方だ」

杉が右斜め前を指差す。

「山の方やな」

「住所は知らねえけどな」

「大丈夫なんか?」

「このポンコツ、ナビついてねぇからな。拡声器から声出すマイクはついてんのによ」

「それはわかってる」

「じゃあ、何が問題だ?」

「そっちに行くのに、なぜこの道なんやと聞いてんねん」

「Googleマップだ」

「は?」

「事前に見たんだ、ストリートビューで。便利だな、あれ」

「せやけどな、遠回りしてるで」

「そうだろうな」

「おい」

「大通りから行かないとわかりづらいんだ、神戸の道は」

杉が口を尖らせながら、交差点を右に曲がった。

 

坂道を登り始めると、道が極端に狭くなった。

「合ってんのか、ほんまに」

「うるせえな。確か、ここを曲がったところに…」

杉が言いながらステアリングを切る。

車二台すれちがうのがやっとの道に入り、直進すると、急に視界が開けた。

「おお。やっぱりあった。ほらな」

杉が自慢げに言った。

「着いて当たり前やぞ。地図見てねんから」

ミソジは言って、杉が指差す左斜め前の白いビルを見た。

そのビルは五階建てで、すぐ隣りに工場と思しき二階建ての大きな建物があった。

両方とも周囲を高さ2メートルくらいの壁に囲まれている。

「食品会社やったよな、確か」

ミソジは言った。

弓森食品。乾麺とか冷凍食品を扱っている」

杉はそう言いながらハイエースを徐行させ、右に曲がった。

「行かへんのんかいな」

「バッカ、おまえ。右翼の街宣車で乗りつけたら、騒ぎになるだろうが」

ハイエースが弓森食品の隣りにあるマンションの前も通り過ぎ、その脇にある月極駐車場に入った。

「おい」

「すぐ出るから大丈夫だ」

 

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「で、どうすんだ?」

来た道を歩いて戻りながら、ミソジは言った。

「弓森食品へ行くに決まってんだろ」

「行ったところで栄治が…、って、おい!

マンションの前を過ぎたところで、杉が急に走り出した。

「おい!」

ミソジは慌てて、後を追った。

前を行く杉の背中が遠くなる。

「なんやねん!」

言いながら、ミソジは全力で駆けた。

 

杉が速度を落とし、停まった。

門の脇にある守衛室に歩み寄る。

ミソジはようやく追いつき、立ち止まったところで咳き込んだ。

「すみません。ぼ、僕ら東京支社から来たんですが、ゆ、弓森栄治さん、いますか?」

杉が、息を乱しながら言った。

「え? えっと‥」

窓から見えた守衛らしき男は、老人と言っていいほどの歳に見えた。

制帽を被り、胸元に記章のついた水色の制服を着ている。

「急いでるんで、すぐに調べてください。来てるか来てないか」

杉がジャケットの襟を正しながら言った。

「あ、ああ。ちょっと待ってください」

老人が不慣れな手つきで、手元のタブレット端末を触っている。

「まだですか」

杉が苛立った様子で言った。

「えっとですね。今日は入退室の記録がないので…」

「つまり?」

「来られてないですね」

「本当ですか」

「はい」

老人が申し訳なさそうな表情で頷いた。

「こ、困ったなあ。どうしよう。取引先カンカンなんだよな」

息を切らしたまま杉が言った。

先程とは打って変わって弱々しい口調だった。

「ど、どうかされたんですか?」

「いやね、僕ら東京支社から来たんですけどね…」

「はい」

老人が頷く。

「ここの工場の…」

杉が胸を押さえて息を整える仕草をした。

「工場の?」

「この工場から出荷された製品で、お客さんが腹を壊したって入院したっていうクレームが、ね」

「ええっ?」

「だから、ほら、弓森さんに」

「えっと、ですが、弓森課長は確か広報課やから…」

「広報課『だから』、ですよ。いいですか、えっと…」

杉が守衛室を覗き込むように言った。

岡田です」

「いいですか、岡田さん。広報課ってのはね。社外に出る情報を一手に任されるポジションでしょ?」

「そ、そうなんですか。私はここの社員とちゃうから…」

『ウチの会社』では、そうなんですよ。特にここは本社にも近いし、それに…」

「それに?」

「弓森さんはほら。あなたも知ってるでしょう?」

創業家の、ってことですか?」

岡田老人の言葉に杉が大きく頷く。

「だから、早めにそういう情報は伝えておかないと。わかりますよね?

「え、ええ」

岡田が小刻みに何度か頷いた。

 

「弱ったなあ。もし週刊誌にでも嗅ぎ付けられたら、大変なことに…」

杉が眉間に手を当ててうつむいた。

「ど、どうなるんですか」

「少なくとも立ち入り検査は入るでしょう。で、役所から業務改善命令が出て、一定期間は稼働できないでしょうな」

「えらいこっちゃ」

「でしょう? 岡田さん、あなたも職を失うかもしれない」

ええ? なぜです」

「万が一、工場が閉鎖なんてことになったら、別の派遣先が決まるまで、ってことですよ」

杉が声を低めて言った。

「そんなことに…」

「悪ければ、の話です。ですから、一刻も早く弓森課長に知らせなくては」

「そ、そうですね」

「ここからかけてもらっていいですか」

「え?」

「電話ですよ。弓森課長の番号わかりませんか?」

「えっと…」

岡田が訴えかけるような視線でこちらを見た。

ミソジは目を合わせたまま何も言わなかった。

「いや、私ら慌てて出てきたもんで、住所録も何も持ってきてないんですよ。電話で話せる内容でもないですしね」

杉が言った。

「し、しかし、弓森課長個人の番号は、こちらでは…」

「誰ならわかりますか?」

工場長の、なら」

「だったら、工場長に電話して弓森課長の連絡先を聞いてください」

「は、はあ」

「事は一刻を争うんです。さあ、早く!!」

 

 

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