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ウェブ狼 第二十五話 ~神 (Jin)~

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小山邸を辞し、ミナミへ戻った。

途中でタイゾウを降ろし、ミソジは【BAR SEO】へ向かう。

杉と初めて会った場所であり、奴がそこの常連だからだ。

何か手がかりがつかめるかもしれない。

そう思った。

 

【BAR SEO】の表にある電飾看板は、灯りが消えていた。

一瞬逡巡したが、ドアを引いて中に入った。

「ちょうど閉めようかと思っていたところです」

洗い物をしていたバーテンの菅田が微笑を浮かべながら言った。

「申し訳ない。ちょっと聞きたいことがあって」

ミソジは早口で言った。

菅田が手を止めて、こちらを見た。

「私で答えられることなら」

カウンターのスツールを指し示す。

「どうぞ、おかけになってください」

「ありがとう」

「何か飲まれますか」

「いえ、結構です」

「ほな、これでも」

菅田がそう言って、カウンターにグラスを置き、水を入れてくれた。

 

ミソジはスツールに座り、グラスを手に取った。

何の気なしにグラスに口をつける。

自分が水分を欲していたことに気づいた。

それを一気に飲み干した。

渇ききっていた身体に、水が染み込んでいく。

はっきりとわかった。

 

菅田が黙って水を注いでくれた。

「落ち着きましたか?」

「え?」

「ここに来たときの御堂筋さん、何かにとりつかれたような顔してましたよ」

そう言われ、小山の家で出された水に口をつけていないことを思い出した。

話に夢中だったからだ。

 

「で、お聞きになりたいこととは?」

洗い物を終えたらしい菅田が、シャツの袖ボタンを留めながら言った。

杉成就のことです。元さん、何かご存知ないですか?」

「杉、さん? よく一緒に飲まれている?」

「そう。ここでしか会わへんから、彼が何者なのか知らなくて」

「私もあまり多くは知りませんね」

「聞かせてください。どんなことでもいいので」

「そうですね」

菅田がカウンターに置いていた煙草のパッケージを手に取った。

「吸っても?」

菅田が言った。

ミソジは頷いた。

 

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「杉さんを初めて見たのは、8年ほど前です。私の兄貴分に連れられてここへ来ました」

「兄貴分?」

訊き返す。

菅田が頷く。

紫煙が揺れた。

 

「お恥ずかしい話ですが、私は昔、極道でして、そのときの縁です。もう兄貴分も足を洗っていますが」

「ということは、杉も?」

「杉さんはそっち方面とは関わり合いがない、と。兄貴分が足を洗ってからのお知り合いだそうで」

「そうですか」

「確か当時、杉さんはフリーライターという肩書だったと思います。兄貴分とどういう経緯で知り合ったかは知りませんが」

「フリーライター、ですか」

「私が知ってることは、それくらいですね」

「それだけですか?」

「ええ」

菅田が蛇口をひねって水を出し、吸い終わった煙草に水をかけた。

「あの方は大体、葉巻を一本吸って、ウイスキーを二、三杯飲んだら帰られます。御堂筋さんが来られているときだけですよ、長居するのは」

「どこに住んでるとか、どこかへ立ち寄るとか。そういうことは?」

「家は近くだとおっしゃってましたが、それ以上のことは…」

菅田が首を横に振った。

「どんな些細なことでもいいんですが、何かあれば」

 

ワケアリのようですね」

束の間、口をつぐんだ菅田が言った。

「ええ、実は…」

「おっしゃらなくても結構です」

菅田が話を途中で遮って、続ける。

「私はこれ以上、何も知りませんが、杉さんの過去を知っている人を紹介できます」

「誰ですか」

「もう少ししたら、ここに来られます」

 

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カウント・ベイシー楽団【Back to the Apple】

軽快なリズムが店内に響いていた。

「案外、お互いのことを知らへんもんですね」

そう言って、ミソジはグラスの水を口に含んだ。

「酒場で知り合うと、そんなものですよ」

菅田が言った。

 

考えてみると、この菅田という男についても、ミソジはよく知らなかった。

元さん』と呼んではいるものの、互いに個人的なことを話した記憶がない。

菅田は、見たところ40半ばくらいの年齢だった。

細身で、長めの髪の毛を後ろに撫でつけているが、今はそれが一束だけ顔に垂れてきていた。

 

と、ドアが開いて、背の高い男が入ってきた。

入り口が暗かったせいで顔が見えなかった。

「お疲れ様です」

姿勢を正した菅田が頭を下げた。

「ご苦労さん」

そう言いながら、ゆっくりカウンターに近づいて来たのは、かなり歳のいった老人だった。

胸元に白いポケットチーフを入れた濃いグレーのジャケットに薄いベージュのパンツ、足元は黒い革靴。

七三分けにした髪の毛の大部分は白髪だった。

背筋が伸びていて、歩き方もしっかりしていたので、顔が見えるまでそれほどの年齢だとは思わなかった。

 

ミソジはスツールから降り、頭を下げた。

老人がやや目を見開いた。

「やあ、こんばんは」

老人が柔和な表情で言った。

「こんばんは」

再度、頭を下げ、ミソジは言った。

「こちらは?」

「よくいらっしゃるお客様です。御堂筋さんとおっしゃいます」

菅田が直立したまま答えた。

「ああ、そう」

老人が深く頷いて、こちらに向き直る。

「ご贔屓にしてくださって、ありがとう」

そう言って、老人が微笑んだ。

「いえ、とんでもないです。御堂筋と申します」

ミソジはやや見上げるようにして言った。

近くで見ると、姿勢が良いこともあって、老人はより大きく見えた。

「はじめまして。神正一(じんしょういち)です」

老人が名乗った名前に、聞き覚えがあった。

ミソジはそれを記憶と照らし合わせた。

「もしかして、あなたは…」

「御堂筋さん。オーナーは『マーケティングの神様』と呼ばれていて、その方面ではかなり有名な方です」

菅田が言った。

「シャレの効いたあだ名だけど、神様ってのは大げさだね」

神と名乗った老人が、スツールに腰を掛けながら言った。

 

 

続き【ウェブ狼 第二十六話 ~手がかり~】を見に行く

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