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ウェブ狼 第十二話 ~凪、静けさ~

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前回(ウェブ狼 第十一話 ~会議は踊る、されど芽生えず~)はコチラ

 

出迎えてくれたのは矍鑠としたという表現が似合う老爺だった。

その老爺に連れられ、紫に近い濃い赤色の絨毯が敷かれた大きな階段を二階へ上がった。

手前から二番目、ブラス真鍮細工入りのガラスをはめ込んだ赤茶色のドアを老爺がノックした。

乾いた音が三回、廊下に響いた。

「どうぞ」

中からよく通る声が聞こえた。

老爺がドアを開け、導き入れてくれた。

 

「失礼します」

ミソジはいくぶん大きな声で言った。

「いらっしゃい。待ってたわ」

美里が窓際の椅子に座っていた。

今日の装いは紺色のロングドレスだった。

「お世話になっております。お邪魔します」

ミソジは一礼して、入室した。

大きな張り出し窓が二つあり、ペルシャ絨毯が敷かれた部屋だった。

広さは二十畳くらい。

両の壁に備え付けられた本棚が百科事典やハードカバーの本で埋め尽くされている。

 

「あら?」

美里が、ミソジの背後に目を留めた。

「あ、えっと、こちらは助手というか…」

新田といいます。御堂筋さんの会社の後輩です」

一歩前へ進み出て、瞳が革製の名刺入れをジャケットのポケットから出した。

「名刺は結構よ。瞳さん

「どうして、あたしの名前を?」

「なんでやろね」

美里が感じの良い笑みを浮かべた。

瞳が大きな目を見開いていた。

 

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「まあ、お座りなさい。じきにお茶もくるやろし。あ、紅茶でよかった?」

「どうぞお構いなく」

前回来たときに飲んだ、ハーブ入り紅茶の味を思い出しながら返事した。

「瞳さんは?」

「あ、はい。大丈夫です」

『大丈夫』という言葉遣いが気になった。

しかし、美里が咎める様子もなさそうだったので、ミソジはそっと胸を撫で下ろした。

 

大きめのコーヒーテーブルを挟んで、美里と向かい合った。

「吸っても?」

美里が葉巻を包みから出した。

ブラックストーンのバニラ。

甘い匂いのする葉巻だ。

「あ、大丈夫です」

瞳が答えた。

「ここは書斎なんよ。と言うても、ほとんど使ってへんし、第二応接室みたいな扱いしてるけど」

美里が瞳の無遠慮な視線に気づいたのか、説明口調で言った。

ミソジは瞳を視線で咎めた。

瞳は悪びれず、笑みを浮かべて小首を傾げた。

ミソジは美里にわからないように溜息をつき、美里に向き直った。

 

「先日の件に関することで提案させていただきたく、伺いました」

「ええ、聞いてるわ。それで?」

美里が葉巻を持った手をテーブルの上に乗せた。

透明なものと赤い色の、大ぶりの宝石が二つ、光っていた。

 

「まず、アクセスアップの件ですが、こちらはウェブ広告を中心に進めています。具体的にお聞きになりますか?」

結構。結果さえ出してくれたら、手段は気にならへんから」

「わかりました。それで、私の提案は…」

ミソジは数日前、瞳に話したのと同じ内容の話を始めた。

アクセスアップに絡めて、実店舗に集客する方策を試さないかという内容だ。

美里は薄い笑みを浮かべて、ミソジの話を聞いていた。

 

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話し始めて五分くらいした頃、ノックの音がした。

「失礼します」

そう言って入って来たのは、アンディ・ジョーンズだった。

ベージュのネクタイ、ベージュのスラックスに、真紅のジャケットを羽織っている。

ミソジは美里に向き直り、話を切った。

美里は何も言わなかった。

ミソジは目だけ動かして、視界に入ってきたアンディを見た。

アンディがこちらに目を向け、唇の端を持ち上げた。

「あっ」

瞳が小さく声を上げた。

「どないかした? 瞳さん?」

美里が片眉を上げて言った。

「いえ、なんでもありません」

瞳が首を横に振った。

アンディは三人分の紅茶を入れ、ポットを置いて部屋を出た。

 

ミソジは再び口を開いた。

美里に資料を渡し、更にノートパソコンの画面を見せながら説明した。

「どこかご不明な点はございますか」

「特にないわ」

「提案の件は、いかがでしょうか」

ミソジは訊ねた。

美里は束の間、窓の外に視線を移した。

その横顔から何の感情もつかみとれなかった。

「まあ、それも含めてアクセスアップにつながるいう話なら」

美里が言った。

「では…」

「その辺の詳しいことはと話し合ってみて。電話入れとくから」

「と、おっしゃいますと?」

「あら、言うてへんかった? 喫茶店は娘に任せてんねん。全権委任」

店長、ということですか」

「そうね」

美里がそう言って、紫煙を吐いた。

 

続き【ウェブ狼 第十三話 ~邂逅~】を見に行く

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