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ウェブ狼 第十五話 ~長い昼下がり~

コーヒーショップ
By: Ruth Hartnup

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前回(第十四話 ~薔薇~)はコチラ

部屋に案内してくれた女性が、コーヒーを淹れたマグカップを持ってきてくれた。

「ごめんなさい。置く場所がなくて」

里奈が申し訳なさげに言った。

「いえ、お気づかいありがとうございます」

ミソジは両手でマグカップを包むようにして持った。

掌に伝わるコーヒーの温かさが心地よかった。

一口すする。

濃厚な味が口中に広がった。

「美味しい」

隣りで瞳が言った。

 

ブラジル・セルトン・カツアイ・ナチュラルフルシティーローストにしています。本日のおすすめコーヒーです」

里奈が言った。

「なんですか、その呪文みたいなの」

瞳が訊いた。

「ブラジルのセルトン農園でとれたカツアイという品種の豆を、天日干しで処理して中深煎りにしたっていう意味なんですよ」

「中深煎りっていうのは?」

ミソジは言った。

「焙煎の具合には、大きく分けて浅煎り、中煎り、深煎りってあるんですけど、それを更に細かく分けると8つになるんです」

「へえ」

フルシティーローストは一番深いものから数えて三番目ですね。深煎りと中煎りの間くらいですから、中深煎りって言われることがあります」

「そういうことですか」

ミソジは頷いた。

「フルシティーローストにすることで、セルトン農園の豆は果実に似た甘みが出るんですよ」

「言われてみれば、ちょっとフルーティーかも」

「でしょう?」

里奈が嬉しそうに瞳を見た。

 

「本日のおすすめコーヒーは、いつも単一の豆で淹れるんですか?」

ミソジは言った。

「いつも一種類の豆で淹れるわけではないんです。ブレンドのときもありますよ」

里奈がこちらを向いて答える。

「良い豆があるときは、一種類で淹れるっていうことですか」

「そうですね」

里奈が頷いて続ける。

「お店がブレンドコーヒーを用意するのは、お客さんによって味に好き嫌いがあるからなんです。ですから、万人受けするようなものにするために混ぜるんですね。価格調整の意味もありますけど」

「仕入れ値の高い豆だけで淹れると採算がとれない。そういうことですね?」

ミソジは言った。

「そうです。それと、単一の豆で淹れたものを商品にすると、供給が不安定なときに困るということもあります」

「なるほど」

「でも、良いものがあれば、できるだけ安く提供したいと私は思ってまして。ですから、本日のおすすめコーヒーとして一律の値段で出しているんです」

「ということは、我々は『当たりの日』に来たということですね?」

「そういうことになりますね」

里奈が微笑んだ。

 

 

「失礼ですが、そういった取り組みをお客さんは知っていますか」

ミソジは言った。

「いえ、訊かれたら答えるようにはしていますけど」

「差し出がましいようですが、良い豆を使っていることを説明する貼り紙というかポスターのようなものを用意した方がいいですね。メニューの中に書いてもいいかもしれません」

「どうしてですか」

商品についてしっかり伝えないと、お客さんは価値を感じてくれないからです

「はあ」

「そうしておくと、それ相応の値段をつけても、お客さんは納得してくれます。ひいては客単価アップにもつながります」

「値段を上げると、納得してくれない方もいるんじゃないでしょうか」

「一定割合のお客さんはそうでしょう。でも、ちゃんと商品の価値をわかってリピートしてくれるお客さんが来れば、お店としても良い方向へ行くんじゃないでしょうか」

「それはそうですけど、うちは常連客が多いので、急に値上げするのはちょっと…」

「その場合、商品のラインナップを分けてみるのもいいかもしれません」

 

「と、おっしゃいますと?」

「これは一例ですが、本日のおすすめコーヒーを松竹梅の三段階に分けるんです。そして選ばせたいメニューを竹にしておきます」

「そうすると、どうなるんですか」

「竹を選ぶお客さんが増えるでしょうね。無難なところですから。もっと確実に選ばせたければ、竹商品の横に『オススメ』と書いておいてください」

「そういうやり方があるんですね」

「まあ、一例ですから、他のメニューやお店全体を見てみないことには提案即実行というわけにはいきませんが」

 

「先輩。コンサルティングの話もしてないのに、いきなりだと里奈さんも困りますよ」

瞳が横から口を挟んだ。

「あ、そうか。失礼しました。ついうっかり…」

ミソジはそう言って、残りのコーヒーを飲み干した。

甘さよりも苦味が喉を伝わって胃に落ちた。

「そのコンサルティングのお話というのは…?」

「はい。では、今回、私と新田が任された案件の話を含めてお話しします」

ミソジは、酒井美里と弓森由利子のいさかいから起こったホームページのアクセス数勝負の件を語った。

そして、それに関して、ウェブ広告を主とした施策を打つことを説明した。

 

「そんなことが起こってたんですね。私の知らんところで」

ミソジが一通りの説明を終えると、里奈がため息をついた。

「気分を害されたとしたら申し訳ありません」

「いえ、御堂筋さんのせいではありませんから。それに、母や義母の勝手に振り回されるのは毎度のことですし、気分を害するなんてことはありません」

そう言った里奈の表情には、諦めの色が浮かんでいた。

「それで、私はどうしたらいいんでしょうか」

「ひとまず今、話した件に関しては、特に何かしていただくことはありません」

 

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「そのリスティング広告というものは、お金がかかるんですよね」

少し考え込むような仕草をした後、里奈が言った。

「ええ。料金についてはお母さまにお支払いいただくことになっています」

「どういうものなんですか、リスティングって」

「クリック課金型の広告です。広告スペースに、このお店の宣伝を出します。その広告を誰かがクリックしてホームページを訪れると、料金が発生します」

「その誰かが料金を支払うんですか?」

里奈が目を丸くした。

「いえ。広告主が予算を決め、あらかじめワンクリックにつきいくら払うという設定をしておきます。そして、広告をクリックされるごとに、その分の設定金額分だけ予算から引かれていきます」

「こちらが広告料を支払うんですね。考えたら当たり前のことですよね」

「ですね。とはいえ、クリックされなければ一円もかかりませんし、少ない予算でも始められますから、ウェブ広告の中では人気があるんですよ」

「私の知らない世界です。スゴイですね」

里奈が目を輝かせた。

 

ミソジは頷き、胸ポケットからスマホを取り出した。

「で、リスティング広告には検索連動型とコンテンツ連動型の二種類あります。今回はこの両方とも使います。たとえば、これです」

片手でスマホを持ち、Googleの検索結果画面を里奈に見せた。

「GoogleやYahooで検索窓に語句を入れて検索したときに、結果一覧の上と下に出てくるものが検索連動型です」

「この黄色い『広告』という印がついているものですか」

リスティング広告 検索結果

「そうです。それに対して、ウェブページの広告枠に表示されるものが、コンテンツ連動型です」

ミソジは検索結果一覧の一番上にあるタイトルをタップして、あるページを表示させた。

「たとえばこの枠です。水素水の広告が出てますね」

ミソジはページ途中で表示された、広告枠を示した。

「使い方によっては、ユーザーの興味がありそうな広告を、自動で表示してくれますから便利です。これは私が一昨日、水素水を調べたから出てきたんでしょう」

「あ、そういうことなんですか。いつも疑問に思っていたんです。どのページを見ていても広告がついてくるなあって」

リマーケティングとかインタレストカテゴリなんていう専門用語がありますけど、人を追いかけたり、人をカテゴリ分けして広告を出したりできるんです」

「なんか、スゴイ話ですね。私、アナログやから全然わからなくて」

「だからこそ、我々のような専門家がいるんですよ」

「そうですね」

里奈が深く頷いた。

「正直言うと、喫茶店と呼ばれるような業態でリスティング広告を使うのは稀なんですが」

ミソジは言った。

「そうなんですか」

「顧客単価が低い業態ですと、採算面で難しいのが現状です。今回は、ちょっと特殊ですね。ホームページの宣伝が目的ですから…」

 

 

ライフペイジを出ると、外はすっかり暗くなっていた。

「予定の時間をかなりオーバーしましたね」

前を歩いていた瞳が振り返って言った。

「そうやな。ちょっと喋りすぎたか」

「ちょっと、じゃないですけど」

「そうかな」

「はい、そうです」

瞳が強い調子で言った。

 

「何を怒ってるんだ」

「別に。怒ってません」

瞳が早足で前を歩きながら、車を停めたコインパーキングに入った。

「飯でも食って帰るか」

ミソジは精算機に料金を入れながら言った。

「おごりですよ」

瞳がこちらを向いて笑顔を見せた。

 

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