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ウェブ狼 第二十四話 ~the big man~

ヘッドライトを点灯させた車
By: senov

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「……というわけやねん」

ミソジはつい一時間前までいた箕面の弓森邸での出来事を、かいつまんで説明した。

「へぇ」

まだ頭に包帯を巻いたままのタイゾウが、間延びした返事をした。

深夜にもかかわらず、タイゾウが事務所にいたのは、マンションを引き払ってここに住み込んでいるからだ。

「ってことは、俺がその杉って人を捜せばいいの?」

タイゾウが顔を歪めながら座り直した。

退院はしたが、アンディ・ジョーンズにやられた傷が完全に癒えたわけではないらしい。

 

「できるか?」

「失踪人探しはやったことないんだよね」

「それは知ってる」

「浮気調査が専門だから、ターゲットありきなんだよ」

「せやけどな、これから独立してやっていくねんから、こういう依頼も受けていかなあかんわけやろ?」

「うん、そうなんだよ。でも、この件は急ぐんでしょ? もちろん俺もやるけど、一人だと心もとない」

「俺がいてる」

「それにしても、だよ。素人同然の二人が当てもなく街をさまよったところで……」

タイゾウが語尾を濁した。

「とはいえ、他の誰かに頼むってのはな。内容が内容だけに、信用できる人間しか…」

「そこで、だよ」

「なんや? 妙案でもあるんか」

「心当たりがあるんだ。手伝ってくれそうで、しかも顔の広い人」

 

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住吉区長居

 

深夜ともなると、大阪市内とはいえ車が少ない。

赤信号にもほとんど引っかからなかったおかげで、ミナミから20分もかからなかった。

この辺りは地元からもそう遠くないため、ミソジには土地勘があった。

「タイゾウ。ところで誰なんや」

「着いてからのお楽しみさ。あ、トシちゃん」

助手席のタイゾウが、身を乗り出した。

「次の角、右ね。で、3ブロックくらい行ったら左にコインパーキングがあるから、そこに停めて」

「ああ」

ミソジは言われるままにハンドルを切り、右折した。

 

「それだよ」

車を降りたタイゾウが、道を挟んだ向こう側を指差した。

三階建ての建物が、そこにあった。

一軒家にしては大きいが、どうやら店舗兼住宅らしく、店舗部分の入り口に、

 

(有)ザ・サン ~包装資材 内装工事請け負います~

 

という看板がかかっている。

 

ミソジはタイゾウの後に続いて店舗用入り口のシャッター前を通り過ぎ、住宅側の門から敷地内に入った。

門にかけられていた表札の名前に見覚えがあった。

「おい、小山って……」

「そう。中学のとき、隣りのクラスだった小山郁美さ」

 

 

通されたのは、店舗部分の奥だった。

事務所の応接セットに、ミソジとタイゾウは並んで座った。

 

「不調法ですまんな」

そう言って、小山がペットボトルの水をローテーブルに二本置いた。

手がグローブのように大きい小山が持つと、500mlのペットボトルが小さく見える。

「こんな夜中に押しかけてすまん」

ミソジは言った。

小山が大丈夫だとばかりに顔の前で手を振り、大きな身体をソファーに沈めた。

「それにしても久しぶりやな。成人式のとき以来やから、もう十年くらい経ったか」

「俺は成人式に参加してへんから、もっと前やな」

ミソジは記憶をたどりながら言った。

 

ミソジは小山郁美と同じ中学に通っていた。

小山は当時から、女の子のような名前には似ても似つかない大男で、縦にも横にも大きかった。

ミソジの記憶では、中学校に入った時点で身長は180cm近くあったはずだ。

 

同じクラスになったことはなかったが、小山とミソジは顔を合わせれば雑談する程度の仲だった。

後から聞いたが、小山はミソジやタイゾウ以外の人間と校内で滅多に口をきかなかったらしい。

理由はわかっていた。

小山は不良グループに属しているわけではなかったものの、学校の内外でよく喧嘩をしていたからだ。

身体が大きかったせいもあって、怖いというイメージを持たれるようになった小山は、自然と同級生から離れて行動するようになった。

そんな小山とミソジが初めて話したのは、授業をサボって屋上にいたときだった。

「火、貸してくれ」

気がつくと傍にいた小山を見て驚いたが、秘密を共有したことで距離が縮まった気がした。

 

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しばらく近況を報告し合った。

 

久しぶりに会って懐かしかったが、それよりもミソジは小山の落ち着きぶりに内心驚いていた。

体格が良いせいもあってか、 風格とでも呼ぶべき雰囲気が備わっているように思えた。

顎髭を生やしているから、余計にそう見える。

 

「そういや、なんでタイゾウが小山の連絡先を?」

ミソジは言った。

「一年くらい前、偶然、飲み屋で会ってな」

小山が煙草に火をつけながら言った。

「小山君が隣の席で飲んでたんだよ。俺は独りだったから、一緒の席に座らせてもらって」

「そういうことか」

「独立するか迷ってたときでね。相談にも乗ってもらったし」

「おまえ、死にそうな顔してたもんな、タイゾウ」

「あのときは、おたくの社員さんたちにも迷惑かけたよね」

タイゾウが苦笑した。

「あいつら、今もたまにおまえの話するで。『あのときの兄ちゃん、大丈夫ですか』って」

「え、そうなの?」

「せやから、また今度、顔出しに来いや」

「うん。ありがとう」

タイゾウが頷いて、うつむいた。

「なに、泣いてんねん」

ミソジは言った。

「な、泣いてないよ」

タイゾウが顔を両手で拭った。

 

「そんなことより、ここに来た理由を。ほら、トシちゃん」

タイゾウが言った。

「いや、小山には悪いけど、俺もなんでここに来たのかいまいちわかってへんねん」

ミソジは小山を見て言った。

「どういうことやねん」

小山が顎髭を撫でながら苦笑した。

「えっとね、トシちゃん。小山君はここの社長さんで、右翼団体の代表もしてて、とにかく顔が広いんだよ」

「右翼?」

「そうや」

小山が頷いた。

 

言われてみれば、部屋の高いところに大きな神棚があって、天皇皇后両陛下の御真影が飾られている。

しかし、他にそれと窺わせるものはなかった。

にもにも知り合いがいるだろうから、きっと良い情報をくれるはずだよ。もちろん手伝ってくれたら、の話だけど」

タイゾウが早口で言った。

ミソジはその説明に頷いてから口を開いた。

「右翼いうたら、あの街宣活動してるやつか?」

「それだけちゃうけど、街宣もやるな」

小山がゆっくりと頷いた。

「そういや、向かいの駐車場にそれらしいハイエースが停まってたな。側面にデカい文字が書かれてた」

「ウチのや。亜細亜大同団結青年同盟

「アジア? 右翼いうたら日本のことだけ考えてるんとちがうんか?」

「それはちゃうで、トシ。頭山満先生の頃からアジア主義というのが…」

小山が言いかけて途中でやめ、前のめりになった姿勢を戻した。

「細かいことはええわ。右翼はただ騒いでるだけの連中と世間には思われてるし、一部のエセ右翼のせいで悪いイメージを持たれてるのは知ってる」

「エセ右翼なんかいてるんやな」

ミソジは言った。

「一時期ようけおったな。チンピラ崩れみたいな連中が脅しの手段につこてたんや」

「なるほど」

「依頼を受けて街宣活動する連中は昔からおるからな。それ自体は悪くないけど、金もうけの手段にしたらあかんわな」

「そうやな」

「まあ、右翼云々は俺の政治信条やから、深く考えんといてくれ。それはいいとして、タイゾウ」

「ん?」

「俺に何をさせようとしてるんや? 確かにおまえが言う通り、大阪近辺なら多少は顔が利くけど、できることとでけへんことがあるで」

「トシちゃんの人捜しを手伝ってもらおうと思って」

「どういうことや、トシ」

小山が煙草を取り出しながら言った。

「ああ。ちょっと長くなるけど…」

そう切り出しておいて、ミソジはこれまでの経緯を話した。

 

殺人事件のこと、その容疑者である杉成就のこと、彼が盗んだらしいカードキーのこと、それを取り返そうとしている金持ちの話など、なるべく細部を省いて説明した。

 

「そういうことか。厄介な話やな」

一通り話を聞いた小山が紫煙を吐き出しながら言った。

「で、トシ。おまえがそいつを見つけられへんかったらどうなる?」

「約束した金がもらえへんだけ」

「その金がないと、おまえは困ったことになるんか?」

「いや」

「なるほどな」

小山が煙草を灰皿ですりつぶして腕を組んだ。

 

「そういうことなら、俺は手伝わへん

「小山君、でも…」

言いかけたタイゾウを、小山が大きな手で遮って続ける。

「困ってる人間がおったら、できる限り助けてやりたいと思う。それが昔の友達なら特に、な。せやけど、今回のは違う。俺が言うてる意味、わかるよな、トシ?」

「ああ」

ミソジは頷いた。

「そういうことやねん、タイゾウ」

小山が言って、ソファーの背もたれに寄りかかった。

「で、でも、小山君…」

「タイゾウ」

ミソジは立ち上がりかけたタイゾウを制して言った。

 

「実はな、小山。俺がこの話を受けたのは、金のためだけちゃうねん」

「というと?」

「もちろん、金も欲しい。金は少ないより多い方が色々と便利やからな。でもな…」

ミソジは一旦、言葉を切ってから続けた。

「俺自身、この事件に無関係とは思えへんねん。共犯を疑われて事情聴取を受けたし。それに…」

「それに?」

何か引っかかってんねん。それが何かわからへんけど、このまま行くと良くないというか、そもそも杉が……」

「今、逃げてる奴が犯人とちゃう。そう言いたいんか?」

小山が言葉を引き取って言った。

「それはわからへん。でも、この事件、何か裏があるような気がしてならん。いちいちキナ臭いねん。上手く言われへんけど」

「ふん」

小山がこちらを真っ直ぐ見て頷いた。

 

「野次馬根性的な興味かもわからん。ただ首を突っ込みたいだけかもわからんけど、何か違うって思うてんねん」

「トシちゃん…」

「せやから手伝ってくれ、小山。もちろん、ただとは言わん」

ミソジは頭を下げた。

「いや、いらん。金には困ってへん」

小山が言下に言い放った。

「これは貸しや。大きな貸しってことにしとくわ」

 

 

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(最終更新:2016年5月30日)コメント0件826

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