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ウェブ狼 第十八話 ~同行~

手錠
By: Thomas Stüven

ウェブ狼 目次はコチラ

前回(ウェブ狼 第十七話 ~来訪~)はコチラ

人物相関図(クリックでポップアップ)

 

「今朝、警察が来た」

ミソジはコーヒーをすすってから言った。

「え? なんで先輩のところに?」

瞳が大きな目を丸くして言った。

「多分、杉からのつながりやと思う。話の内容から推測して」

 

会社から少し離れたところにある喫茶店。

わざわざ外から見えない席を選んだ。

二人でいるところを見られるのは避けたかった。

変な噂を立てられるのは、双方にとって好ましいものではない。

 

「あの杉って人が犯人なんですか」

瞳が、声を抑えて言った。

「そんな口ぶりやったけど、警察の連中が何を考えてるかわからへん」

ミソジは腕組みして、続けた。

「君のところへは行かへんと思うけど、一応報告や」

「もし、あたしのところに来たらどうしたらいいですか」

「ありのまま話したらええ。君は、杉と弓森由利子のこと、ほとんど知らんと思うけど」

 

「そうですね」

瞳が頷いて、続ける。

「ところで、先輩」

「ん?」

新しい仕事って引き受けるんですよね? 酒井さんからの」

「ああ、それな。その話をしに来たんやけど」

ミソジは言って、コーヒーカップをソーサーに置いた。

「けど?」

「ちょっと考えさせてほしいねん。一ヶ月以上、休みもなく働いてたせいで、息子の顔もロクに見れへんくて」

「ああ、そうですよね。家族サービス…」

「せやから、ちょっとなぁ」

「仕方ないですよね、それは」

瞳がうなだれた。

「君には悪いと思うてんねんけど」

ミソジは腕組みを解いて言った。

「それはどっちの意味で、ですか」

「え?」

「いや、いいんです。忘れてください」

瞳が言って、立ち上がった。

「昼休憩、終わりますよ、先輩」

 

 

早めに仕事を切り上げ、退勤した。

外は暗くなりかけていた。

駅への道を早足で歩く。

「御堂筋さん」

不意に声をかけられ、足を止めた。

振り向く。

 

雨田がすぐ近くにいた。

そして、少し離れて戸根がいる。

11時間ぶりの再会。

 

「朝のお返しさせてもらお思いまして」

雨田が微笑みながら言った。

「何の話です?」

ミソジは無意識に半歩下がった。

「コーヒー、おごってもろた件です」

「あれは、別に」

「私は結構、義理堅い方ですねん」

雨田が顎をさすりながら言った。

「何をしてくれはるんですか。悪い予感しかしませんけど」

ミソジは歩道の端に寄りながら言った。

 

「そない大層な話とちゃいます」

「どんな話です」

ミソジは腕時計に視線を落とした。

「何かご予定が?」

「ええ、あります」

「お時間はとらせません。ちょいとドライブしませんか、我々と」

雨田が軽い調子で言った。

「お断りです。ええ歳こいた大人の男が三人でドライブ? 気色悪いことこの上ありませんわ」

ミソジは思ったことをそのまま口にした。

「言わはる通りですわ。ほなら、こないしましょ。私らの職場見学しに来ませんか」

「なぜです?」

「府警の内部に入ったことないでしょ? ご案内できたらな、思てるんですけど」

「ありがた迷惑です。そんな体験いりませんわ」

「まあまあ、そう言わんと。刑事ドラマのようにカツ丼は出せませんけど」

「カツ丼なんて出されても困りますわ、犯人ちゃうのに」

「これは一本とられましたな」

雨田が短く刈った頭に手をやって言った。

 

話が途切れた。

雨田は立ち去る気配を微塵も見せなかった。

「あのねぇ、雨田さん。逮捕状は持ってはらないんですよね? せやったら任意同行ってわけですよね」

おい、あんた。市民は警察に協力する義務があんねん。そんなこと知らんわけないやろ」

雨田の背後から戸根が言った。

痺れを切らした。そんな様子だった。

「法律にそんな規定はないはずや。逆なら知ってるで。憲法31条に書いてある。『何人たりとも法律に定めた手続きなしに、自由を奪われることはない』ってな」

ミソジは咄嗟に言った。

「えらい詳しいな。雨さん、こいつ昔、しょっ引かれたことあるんちゃいますか」

戸根が口の端を歪めて言った。

「法律の話になると困りますな」

戸根の問いかけに答えず、雨田が本当に困ったような顔をした。

「困るのは、そちらに法的根拠がないからでしょ?」

「そんな弁護士さんみたいなこと言わんと。軽い気持ちで来てくれはりませんか」

「いや、行くかどうかは私が決められるはずです」

「まあまあ、ここはひとつ私の顔に免じて。任意での同行ですし、いつでも帰らはることはできますし」

 

続き【ウェブ狼 第十九話 ~密室~】を見に行く

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