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新卒で入った会社が割とブラックだった話⑤~キレる僕~

新卒で入った会社が割とブラックだった話⑤~キレる僕~

黒い蝶
By: Alias 0591

以下、この話はフィクションだと思って読んでください。

フィクションに決まっています。大事なことなので二回言いました。

 

前回までの記事はコチラ
新卒で入った会社が割とブラックだった話①
新卒で入った会社が割とブラックだった話②~奇々怪々? 人事異動、移動~
新卒で入った会社が割とブラックだった話③~意味ない駆け引き~
新卒で入った会社が割とブラックだった話④~呼び出しをくらう僕~

 

社長室に入ったら

僕がいる店舗から社長室のある本社ビルまでは歩いて一分もかからない距離にある。

 

本社ビルの裏口にある階段で、二階に上がった。

(一階は店舗。東京出勤の初日に僕が潜り込んだ朝礼が行われる会議室へ行く階段とは逆側の階段を使った)

 

「あら、あなた。新人の子?」

階段を上がり切ったところで、社長室へ続く前室兼事務所のようなところにいた女性に声をかけられた。

確か社長の親族だか、元奥さんだか、と思うが、その辺は記憶が曖昧で覚えていない。

見た目からして60歳くらいの女性だった。

 

「はい。大阪店から研修に来てまして」
僕は答えた。

「あら、そう」

「で、ついさっき、館内放送で社長に呼ばれまして」

「ああ、そう。ちょっと待ってね」
そう言って女性は社長室をノックして中に入って行った。

 

しばらくして戻って来た女性が僕に言う。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」
僕は頭を下げて、女性が開けてくれたドアから社長室に入った。

 

社長は自分のデスクについていて、いつものだみ声で電話をかけていた。

すぐに社長が僕に気づいて、ちょっと待てというような手振りをした。

僕は頭を軽く下げて、休めの姿勢で待つことにした。

 

と、会議室に繋がっている方のドアから専務が入って来た。(社長室には二つのドアがあった)

専務は松○弘樹似の顔にがっしりした体つきで、押し出しが良い。

その専務が僕を見て何も言わず、むっつりした表情で、少し離れたところに立った。

『なんや、この状況?』

僕の頭の中は疑問符でいっぱいになったが、考えても答えの出るもんでもないと思って部屋の中を観察することにした。

 

社長室は物が散らかっているわけでもないのに、雑然とした印象を僕に与えた。

それは賞状入りの額縁やタペストリー、有名人と社長が一緒に写った写真が無秩序にそこら中の壁に飾られているせいだということに気づいた。

 

と、そのとき、社長が受話器を置いた。

部屋が一瞬、静まり返った。

 

 

喧嘩腰、巻き舌

怒れるオッサン
By: Jeromy Shepherd

 

「おい、杉。おまえ、最近どうやら売り上げが良いみたいだな」
少しの沈黙の後、社長が言った。

「はい、おかげさまで」
どう返事したらよいものかわからず、とりあえず僕はそう言った。

 

社長が老眼鏡をかけて、手元にあった資料(多分日報だろう)に視線を落とす。

「これ、見るとだな。二日連続でおまえんとこのフロアリーダーのSより売り上げ立ててんだよな」

「はあ、そうかもしれません」

「これはどういうことだい?」
社長が上目づかいに言った。

その視線は鋭かった。

 

「どういうことかとおっしゃられましても。まあ、頑張ったからで……」

「今朝よ、Sの奴に言ってやったんだけどよ」
社長がこちらの言葉を最後まで聞かずに言った。

「フロアリーダーのくせに、入ったばっかりのぺーぺーに売り上げで抜かれて恥ずかしくねぇのかいって、な」

ぺーぺーとは確認せずとも僕のことだ。

 

確かに言われた通りぺーぺーなんだけど、面と向かって言うような言葉だろうか。

人と人の間には一定程度の敬意があって然るべきだと僕は常々思っている。

それが、雇用主と雇用されている者といえど、だ。

だから、僕はこういう言動にはカチンと来る。

 

「別におかしくないんじゃないですか。そんなときもあるでしょう」
言葉が口を突いて出た。

「どういう意味だい?」
社長が声を殊更に低くした。

「言った通りの意味ですよ」
半ば以上、喧嘩腰だ。

そう、僕は自分で思っている以上に短気なのだ。

 

「それを説明しろって言ってんだよ。なんでおまえの方が売り上げを立てられるんだい、ってな」

「だからぁ、ついたお客さんがたまたま高い買い物したんやったら、そういうときもあるでしょって言ってんすよ」
この時点で僕は完全に頭に来ているので、言葉が荒くなっている。

ついでに言うと、巻き舌になっている。

「ってか、各フロアの日報がどうなってるか知らんっすけど、もしフロアリーダーの方が常に売り上げてるんやったら、それは数字書き換えてるんっすよ。社長、マジで知らないんっすか。そうでしょ、だって…」

と、ここまで言ったところで、専務が間に割って入った。

「なんだ、おまえ、その口の利き方は!!」

「は? 今、そんな話してるんとちゃうでしょ。俺は…」

「いいから、おまえは一回外に出ろ」

ガタイの良い専務に半ば押し出される形で、僕は前室兼事務所に出された。

 

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言い訳

言い訳をさせてほしい。
僕は確かに短気なんだけど、理由もなく怒るということはない。

このときはぺーぺーと言われたことが直接のキッカケとなったが、原因は他にもある。

中でも大きかったのは職場体質への不満だ。

 

売り上げの数字を書き換えていることは何となく知っていた。
そうすることで丸く収まるんであれば、まあいいやと思って意識して避けていたというところがある。

しかし、東京の本店で働くにつれ、そういうおかしなところが沢山目について、嫌気が差していたのだ。

数字の書き換え然り、半ば押し売りのような販売手法然り、しまいには報告した分の売り上げが足りないからといって身銭を切って売り上げを補充するといった行為然り、だ。

そんなことをしてもその場しのぎで何の解決にもならない。

 

そして、従業員にそうさせているのは紛れもなく社長の存在だった。

社長が毎朝、従業員に対して恫喝するような行為をし、頻繁に降格や減給などの処分をするから生活を守るために従業員はそういう馬鹿げた手法をとらざるを得なくなる。

 

売り上げが立たないのは確かに従業員の責任もあるかもしれない。
だけど、現場の従業員の頑張りだけで売り上げが伸びるかというと決してそうではない。

もちろん、上層部や企画開発部がそういう努力をしていないという意味ではない。
恐らくどうやったら売れるかということを考えていたとは思う。

でも、もはや業態転換も視野に入れた抜本的な経営改革を考えないといけないレベルにまで達していることが『ぺーぺー』の僕にもわかる状況だったのだ。

それくらい組織の内部はおかしくなっていた。

 

専務に押し出されなければ、僕はそういうところまで語っていただろう。
そして、社長は聞くべきところは聞いてくれたんじゃないかと今でも思っている。

だって、現場の従業員がどんなことをして、どう考えているかなんて、社長は恐らく長い間聞いていなかっただろうから。

それを言えない空気を作ったのは社長自身だから仕方ないんだけど、社長はそういうことを聞きたかったのかもしれない。

これは僕の想像だから本当のところはわからない。

もしかしたら、そういう『耳に痛い』ことを言う人間を邪険にして遠ざけてきた結果が、ああいう状態を招いたのかもしれないんだけど。

 

とはいえ、僕のとった行動は会社という枠組みの中では『アウト』だ。
正しいことだからといって暴言(に近い言葉)を吐いていいわけではない。

でも、今、ああいう場を設けられても、言葉は違えどきっと同じことを言うだろう。

「絶対に間違っている」

、と。

 

ついでに言うと、専務があの場にいたのは、僕が余計なことを言わないように監視するためだ。

なぜなら、数字の書き換え、売り上げの水増しを社内で一番行なっていたのが専務だからだ。

(これは複数ソースに当たったから間違いないと思う)

 

専務についてはまた語る機会があるだろうから、そのときに譲る。

【続きはコチラ】

新卒で入った会社が割とブラックだった話⑥~派閥の話、前篇~

 

前回までの記事はコチラ
新卒で入った会社が割とブラックだった話①
新卒で入った会社が割とブラックだった話②~奇々怪々? 人事異動、移動~
新卒で入った会社が割とブラックだった話③~意味ない駆け引き~
新卒で入った会社が割とブラックだった話④~呼び出しをくらう僕~

 

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