新卒で入った会社が割とブラックだった話⑦~派閥の話、後篇~
新卒で入った会社が割とブラックだった話⑦~派閥の話、後篇~
以下、この話はフィクションだと思って読んでください。
フィクションに決まっています。大事なことなので二回言いました。
前回までの記事はコチラ
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話①
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話②~奇々怪々? 人事異動、移動~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話③~意味ない駆け引き~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話④~呼び出しをくらう僕~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話⑤~キレる僕~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話⑥~派閥の話、前篇~
専務派と部長派
話が少し逸れたので、元に戻す。
そう、派閥の話だ。
僕は新たに配属された『○○館』の一階で専務と共に仕事をした。
専務は仕事ができる。
専務という社長に次ぐ地位にいるくらいだから当たり前だ。
当然だけど、商品知識もバイクに関する知識も僕より明らかに上だ。
そして、営業が上手い。
松○弘樹似の風貌に、バリトンボイスで接客をするから、お客さんも安心感を持って買い物ができる。
だから、よく売れる。
しかも、普段は話しやすい人だった。
明らかに暇なときは二人で雑談していた。
と言っても、僕から話しかけるということはあまりなく、専務が会社のこととかバイクのこととか、思いついたことを話していた。
もちろん仕事のことも教えてもらっていた。
あるとき、会社の話をしていたとき、流れでこんなことを訊かれた。
「おまえ、どっち派なんだよ?」
専務が陳列されたヘルメットを並べ直しながら言った。
「どっち派って何ですか」
僕は大通りを走る車の流れを見ながら訊き返した。
「わかんねぇのか?」
「ええ、全然」
「俺か、部長のどっちかだよ」
専務が振り返って苛立たしげな表情を見せた。
「はあ」
僕は一瞬、何のことかわからず、間抜けな声を出した。
「はあ、ってなんだよ」
「いや、何すか、それ」
僕は本気で意味がわからなかったから更に訊いた。
「どっちに入るか選べって言ってんだよ。俺か部長の派閥か」
と、そこまで言われて意味がわかった。
自分の中に『派閥』という概念がないせいで、理解するのにかなりの時間がかかった。
「どっちでもないっすね」
僕は言った。
「あ? 本気で言ってんのか、それ」
険悪な雰囲気が漂った。
「いや、俺、そういうの嫌いなんで。じゃあ、昼飯行ってきます」
そう言い残して、僕は逃げるように飯を食いに行った。
派閥に入るのを拒否したら…
それから数日後、フロアリーダーと役職者が集まる会合があった。
ぺーぺーの僕は当然のことながら、それに出席する必要がない。
仕事が終わってすぐに寮へ帰った。
次の日、何事もなく仕事を終えて本社ビル三階にある更衣室で着替えていると、入って来たT課長に呼ばれた。
「おまえ、この後、時間空いてるか」
「あ、飯っすか。行きましょう。腹減ってるんですよ。もちろんおごりっすよね」
僕は実に軽い調子で言った。
「ああ、おごりでもいいから行くぞ」
T課長がいつになく真面目な顔で言った。
T課長と、僕と同い年のKさんというフロアリーダーと一緒にラーメン屋に入った。
Kさんはもう七年くらい勤めていて若いのに中堅くらいの位置にいた。
相変わらず店にはお客さんが沢山いて、それぞれが大声でしゃべっているし、テレビもついているから騒がしかった。
「専務がよぉ、おまえのことバカにしてたんだよ。昨日の会合で」
注文を済ませたところでT課長が言った。
「あ、そうなんですね」
「あいつ領収書の書き方もわからねえ馬鹿なんだよ、なんて、おまえのこと言いやがってさ。なあ、K」
話を振られたKさんが頷いた。
「おまえがちゃんとした大学出てんの知らねぇんだろうな、あのオッサン」
T課長が言った。
僕には心当たりがあった。
その悪口の原因は…
『領収書の書き方もわからない』という話には覚えがあった。
二日前のことだ。
あるお客さんが取り置きの商品を受け取りに来た。
常連で、しかも専務の得意客らしく、会計をするときにもずっと楽しそうに二人で話していた。
「領収書をくれ」
と、そのお客さんが言ったので、僕は領収書を取り出して、金額を書き込んだ。
そして、宛名と但し書きをどう書くか訊こうとしたときに、別のお客さんが来店して、僕に話しかけてきた。
その間、専務とその得意客はサーキットに行ったときの話で盛り上がっていて、こちらを気にもかけていなかった。
僕は商品の質問をしてきたお客さんに、ヘルメットにつけるシールドの説明をした。
そして、そのお客さんがバイクブーツを見たいと言ったので、上階へのエレベーターに案内してレジへ戻った。
そのとき、
「じゃあ、また」
と言い、専務の得意客が帰ろうとしていた。
「領収書忘れてるよ、〇〇さん」
そう言って、専務が得意客を呼び止めた。
僕はまだ領収書を書いていなかったので、
「あ、領収書はまだ…」
と言いかけたが、領収書を手にした専務の大声にかき消された。
「おい、杉。おまえ、領収書の書き方もわかんねぇのか」
「いや、わかりますよ」
僕は即座に言ったが、専務は取り合わなかった。
「○○さん。宛名と但し書きはいつものでいいですね?」
専務が僕を押しのけてレジカウンター内に入り、空欄を埋め、店のハンコを押した。
「どうも、毎度です。ありがとうございました」
専務が領収書を渡し、満面の笑みで得意客を送り出す。
僕も頭を下げて挨拶をした。
振り返った専務の顔には既に笑顔はなく、むっつりとした表情で僕に向かって言った。
「書き方わからねえんなら訊けよ。いつも言ってるだろ、わからねえことがあったら訊けって」
「いや、だから領収書の書き方くらい…」
僕は反論しようとしたが、別のお客さんが入って来て、その話はそこで打ち切られた。
釈然としない結末だったが、後でわざわざ蒸し返すまでもないことだから、そのままにしておいた…。
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レッテルを貼りたかった
「それは、おまえが領収書の書き方も知らない使えねぇ奴だっていうレッテルを貼りたかっただけだな」
T課長が割り箸を割りながら言った。
ラーメンが運ばれてきていた。
「俺もそう思う」
Kさんがコップの水を飲んで言った。
「まあ、別にどう思われようがいいんすけどね。どうせ派閥にも入らないし」
「はびゃつ?」
T課長がラーメンをすすりながら言った。
「専務がどっちか選べって。自分か部長か」
「ああ、そういうことか」
Kさんが箸を置いて言って続ける。
「Tさん、これで専務がやたらと杉のことごちゃごちゃ言ってた意味がわかりましたね」
「そうだな。杉、おまえ、断ったんだろ?」
「俺、そういうの嫌いっすから」
僕は言って、豚骨ラーメンをすすった。
「やっぱりな。それで正解だよ。もちろん部長の方にも入らないんだろ?」
「当たり前っすよ。意味わからんっすもん、派閥とかって。そういえば、二人はどっち派なんです?」
僕は気になっていたことを聞いた。
「俺らがそんなもんに入ってるように見えるか?」
T課長が眉間に皺を寄せて顔を傾けて見せた。
「いや、見えませんね。ってか、なんでカッコつけてんですか、今」
「馬鹿野郎。俺はいつもカッコイイんだよ」
T課長が巻き舌で言った。
【続きはコチラ】
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