新卒で入った会社が割とブラックだった話⑧~労働組合の存在 前篇~
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新卒で入った会社が割とブラックだった話⑧~労働組合の存在 前篇~
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以下、この話はフィクションだと思って読んでください。
フィクションに決まっています。大事なことなので二回言いました。
前回までの記事はコチラ
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話①
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話②~奇々怪々? 人事異動、移動~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話③~意味ない駆け引き~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話④~呼び出しをくらう僕~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話⑤~キレる僕~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話⑥~派閥の話、前篇~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話⑦~派閥の話、後篇~
商品補充のオペレーション
まだ専務と共に、○○館の一階で働いていたときのことだ。
「5階さん、ブーツの補充です」
僕は受話器に向かって言い、荷物専用のエレベーターにブーツを突っ込んで5階行きのボタンを押した。
エレベーターが勢い良く上がっていく。
昼前に行われる商品補充は一階にいる社員の重要な仕事だった。(この○○館は確か7階か8階くらいまであった)
アナウンスをしてからエレベーターに補充の商品を乗せて送り、上階の人たちは受け取ったらエレベーターを一階に送り返すというオペレーションだった。
ちなみに、この商品補充は、前日の仕事終わりにフロアリーダーたちが日報と共に提出する商品補充書に基づいて行われる。
POSレジを導入すればそんな手間は省けるんだけど、以前書いた通り、それをやると実際の売り上げが社長に伝わるので現場は導入を拒否している。
労働組合の人たち
昼前くらいに、台車に補充の商品を載せて持って来てくれる社員がいた。
僕はいつも、
「ありがとうございます。お疲れ様です」
と言っていたが、彼は頷く程度の反応しかせず、商品を下ろし終えたら何も言わず、台車を押して去っていく。
僕のようなペーペーには挨拶もしないような感じの悪い人なのかと思っていたけど、専務に対しても似たような態度だったから、ちょっとおかしな人なのかと考え直した。
しかし、それは違った。
というのも、いつもと違う社員が来たときも同じような態度だったのだ。
それで、商品補充を担当している部署全体がそういう感じなのだということに気づいた。
あるとき、僕は専務に言った。
「あの人たち、やたら無愛想ですよね。まともに挨拶もせぇへんし」
「ああ、奴らは『組合』の連中だからよぉ」
諦めたような口調で専務が言った。
その言葉の端々に、嘲るような調子が交じっていることに気づいた。
「組合、ですか」
「ああ、そうだ」
専務がそれ以上は聞くなというような雰囲気で言い切った。
空になった台車を押して歩いて行く『組合』の人の背中が遠くに見えていた。
同じ制服を着て働いているのに、大通りの向こう側という距離以上のものを感じた。
フリスクさんと倉庫へ
「N、どこに行くんだ? 飯はさっき食っただろ」
専務が言った。
エレベーターから出てきたNさんの大きな体が、僕の視界に入った。
Nさんは6階のフロアリーダーだ。
「倉庫です。ジャケットの在庫を取りに」
「そうか。ああ、そうだ。ついでだから、杉、おまえも一緒に行って、このヘルメットを取ってこい」
専務が僕に向かって言い、レジのところに置いていたメモ紙を取った。
「わかりました」
僕は専務が差し出したメモを受け取る。
「倉庫は組合の連中ばかりだから気をつけろよ」
専務が意味深な笑顔を浮かべていた。
僕はその意味がよくわからなかったから曖昧に頷いて、Nさんと一緒に〇〇館を出た。
1月の終わり、外はまだまだ寒かった。
僕は吹き付ける風に震えながら歩いた。
「フリスクさん、倉庫は近くにあるんですか」
僕とNさんは横断歩道を渡り、首都高の高架下を抜けた。
「ああ、おまえ初めてか。近いと言えば近いな」
Nさんが訳知り顔で言った。
(完全に余談だけど、『フリスクさん』というアダ名は、Nさんが奥さんにフリスクを口に含ませてキスしたらシュワシュワして気持ち良いという妙な性癖を酒の席で語ったところからきている)
倉庫とかいう魔境
その倉庫は大通りを越えた向こう側にあった。
古びた6階建てのビルだった。
僕はフリスクさんと一緒に、入り口から入った。
窓がなく、しかも照明が少ないせいでやけに薄暗い。
明るい屋外から入って来た僕は、その暗さに目が慣れるまで少し時間がかかった。
左右の壁際に僕の身長より高くて幅もあるスチールラックが奥まで並べられていて、そこに段ボールがこれでもかとばかりに詰め込まれていた。
「N、何の用だ?」
声が聞こえたので、前を歩くNさんの肩越しに見ると、40歳くらいの細身の男が立っていた。
制服の上に濃紺のジャンパーを着ていた。
店舗にいる社員は、基本的にこのスタッフジャンパーを着ない。
だからそれを着ているということは、外を出歩くことが多い人たちということだ。
商品補充をする倉庫の社員は皆これを着ていた。
そのせいで、僕には『濃紺のジャンパー=組合の人』という認識があった。
(実際には制服で通勤している人も来ていたから、ただの決めつけなんだけど)
「ジャケットの在庫を見に来ました」
Nさんが言った。
「昨日の補充書には?」
その社員は面倒臭そうに言った。
「書いてたんですけど、返ってきた補充書にはバツがついてたんですよ」
「じゃあ、ねぇんだろ」
突き放すような言い方だ。
「いや、そんなわけないんですよ。だって、まだ入荷したばかりですよ、これ」
「ふん。だったら探して来いよ」
「はい」
Nさんがその社員に軽く頭を下げて横を通り過ぎる。
僕も同じようにして狭い通路ですれ違いながら、心の中で思っていた。
『だからPOSレジ導入しろって』
と。
組合員は「補充書」ばかり言う
![不穏な感じのする建物](http://joujusugi.com/35defa/wp-content/uploads/2015/08/6070145370_43e9f20a10.jpg)
結果から言うと、Nさんの言う通り探していたジャケットはあった。
それも一着ではなく、十着はあったと思う。
大きな段ボール箱一つ分が在庫表から漏れていたんだろう。
普通の会社では、そんなことあったら問題なんだけど、この会社ではそういうことが頻繁に起こっていた。
「杉、おまえの方は?」
ジャケットを二着抱えたNさんが言った。
「あ、このヘルメットなんですけど」
僕はNさんにメモを手渡した。
「ああ、これな。多分三階にあると思うぞ。一緒に行ってやるよ」
「ありがとうございます」
二人で階段を下りて、三階に向かった。
三階に着いた。
階段の傍に机があり、その前の椅子に社員が一人座っていた。
デスクライトをつけ、漫画を読んでいた。
「お疲れ様です。このヘルメットなんですけど」
Nさんが言うと、社員が顔を上げた。
関心のなさそうな顔をしてメモを受け取り、その社員が机に置いていた在庫表と照らし合わせる。
「この奥の壁際の二段目か三段目」
それだけ言って、Nさんにメモを返す。
「どうもっす」
Nさんはそう言って、僕を促す。
「帰るとき、補充書を書いてけよ」
その社員が漫画に視線を落としたまま言った。
「わかりました」
僕は返事をして、Nさんの後に続いた。
ヘルメットはすぐに見つかった。
僕は補充書にサインをして、倉庫を後にした。
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労働組合と一般社員の関係
行きがけに専務が「気をつけろよ」と言った意味が分かった気がした。
もし、一人で行っていたら全く相手にされなかったかもしれない。
下手をすれば、倉庫に入れてもらえなかったかもしれない。
そんな雰囲気すらあった。
「フリスクさん、組合の人たち、皆、ああいう感じですか」
店舗に戻りながら、僕は隣を歩くNさんに訊いた。
「ああいうっていうのは、感じ悪いってことか?」
「そうですね。なんか、こっちとまともに接するつもりがないっていうか」
「全員がそうじゃないけど、まあ、そうだな」
Nさんは少し考えてから続ける。
「多分だけどさ、俺らが社長の言いなりになってるように見えるんだろ、真面目に働いてるから。だから俺らのことを嫌ってるっていうか、馬鹿にしてるっていうか。そんな感じになるんじゃないか?」
「そういうことなんですね」
「俺らが言われた通りに働くから、いつまで経っても労働環境が改善されない。そう思ってんじゃないかな。だけど、それもおかしな話でさ、じゃあ、誰がおまえらの給料稼いでんだよって話になるんだよね」
「確かに、そうですね」
「とはいえ、さ。元は同じ現場で、汗水たらして一緒に頑張ってた連中なんだよ。倉庫に入ったとき、声かけてきた人いただろ?」
「ああ、あの門番みたいに入り口に立ちはだかった人っすね?」
「そう。あの人なんかも俺は昔、世話になったことがあるんだよ。だから、なんつーか、今は立場が違ってるってだけで、そこまで悪い感情は持ってないんだよね。俺たち一般社員は、さ」
「なるほど」
「だからさ、あんま気にすんな。別に組合員たちも俺らと直接対立してるわけじゃないんだ」
「ですね」
僕は頷いた。
【続きはコチラ】
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話⑨~労働組合の存在 後篇~
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