新卒で入った会社が割とブラックだった話⑨~労働組合の存在 後篇~
新卒で入った会社が割とブラックだった話⑨~労働組合の存在 後篇~
以下、この話はフィクションだと思って読んでください。
フィクションに決まっています。大事なことなので二回言いました。
前回までの記事はコチラ
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話①
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話②~奇々怪々? 人事異動、移動~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話③~意味ない駆け引き~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話④~呼び出しをくらう僕~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話⑤~キレる僕~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話⑥~派閥の話、前篇~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話⑦~派閥の話、後篇~
⇒新卒で入った会社が割とブラックだった話⑧~労働組合の存在 前篇~
路面店の組合員たちの思い出
専務が在庫表を見て舌打ちをした。
「なんだよ、あの店にしかねえのかよ」
専務を見ると、渋面をしている。
「おい、杉。悪いけど、ヘルメット取りに行ってくれ。電話かけとくから」
「わかりました。どこですか?」
「〇〇って店だ。大通りを渡った向こう側にある。ちょっと歩くけどな。割と急ぎだ」
「わかりました」
僕は○○館を出て、小走りでその店に向かった。
そこは大通りに面した路面店だった。
僕はドアを開けて中に入った。
「○○館からヘルメットを受け取りに来ました」
僕は、中にいた二人の社員を等分に見ながら言った。
「専務のおつかいか?」
レジの横に置いた椅子に座っている三十歳くらいの男が言った。手にした白いヘルメットを布で拭いている。
僕と同じ制服を着ているから、社員だということがわかったけど、違和感があった。
一瞬の後に、その違和感が何なのかわかった。
僕らがいる店舗では社員(店員)が座っているということはあり得ないことなのだ。
そのことで、この店が組合員の店だということに気づいた。
(確かめてはいないけど、多分そうだろう)
「見ねぇ顔だな、新人か? いつ入った?」
「去年の9月です。東京に来たのは今月からで」
「大阪から? はあ~。これ以上犠牲者を増やすなって、マジで」
その社員がわざとらしくため息をつき、苦笑交じりに言った。
その芝居がかった態度は少しだけ鼻についた。
犠牲者というのが僕を指していることはわかったけど、どう反応していいやらわからず黙っていた。
「これ、ヘルメット」
社員が拭いていたヘルメットを差し出してきた。
「ありがとうございます」
「ああ、ちょっと待って。このままじゃあれだな」
そう言って、その社員がヘルメットカバーにそれを入れ、更に紙袋に入れてくれた。
「箱はないから、そっちで何とかしてよ」
「わかりました」
「それと、在庫表書くように言っといてくれ、専務に。多分、書かねぇんだろうけど」
そう言って、社員が鼻で笑った。
間近で見た初めての労働組合デモ
『W社長は不当解雇をやめろ~』
『労働基準法を守らないW社長は、今すぐ未払いの賃金を払え~』
シュプレヒコールをあげながら、通りを集団で歩いて行く社員たち。
全員、僕が着ているのと同じ制服を身にまとっている。(その上に濃紺のジャンパーを着ていたけど)
違うところはと言えば、労働組合の名前が書かれた鉢巻を頭に巻き、社長の行為を糾弾する文章が書かれた旗を持っているところくらいか。
まあ、その違いがかなり大きなものなんだけど。
僕は〇〇館の二階からそれを見ながら、非現実的なものを感じていた。
というのも、僕はこれほど間近で労働組合の活動を見たことがなかったからだ。
教科書や、せいぜいテレビや映画でしか見たことがなかったから、興味津々で観察していた。
しかし、他の社員(非組合員)たちはもう見慣れているからか関心がなさそうだった。
いや、むしろ店の前を通られることで、お客さんがびっくりして店に入って来れなくなるじゃないかと迷惑に思っていたかもしれない。
少なくとも、彼らに労働条件の改善を期待しているようには見えなかった。
そりゃそうだ。
あの社長が譲歩して、労働組合の労働環境改善案を呑むなんてことは誰も考えない。
社長は労働組合員を個人攻撃したり、隙あらば懲戒解雇にしようとしたりと完全に対決姿勢をとっていたからだ。
噂によると(というか事実だとされている)、暴漢を雇って組合の書記を暴行させたなんてことまであったらしい。
それが本当ならとんでもない話なんだけど、あり得ない話ではないと僕は思っていた。
なぜって、社長がそういった関係の人間とズブズブだという噂がまことしやかに囁かれていたからだ。
労基署もお手上げ
実は、この会社には何度か労働基準監督署の調査が入ったことがあったらしい。
しかし、その度に誤魔化しに遭い、何ら処罰も勧告も受けていないという事実があった。
先輩から聞いた話では、あるとき労働基準監督署の調査員が長時間勤務の実態を突き止めようと、張り込んでいたことがあったという。
最低12時間勤務が基本だったから労働基準に照らし合わせると完全にアウトなんだけど、
「勤務を8時間で終えて、その後は事務所でダラダラしていた」(東京の各店舗に事務所なんてものはないんだけど)
などという言わされた感満載の証言にはぐらかされたり、
「店が12時間営業なのは二交替制だからだ」(夜番の人など見たことないんですが)
などの詭弁(というか真っ赤な嘘)を聞かされたりした労基署の調査員はそれを信じたのかはわからないけど、その後音沙汰がなかったという。
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というより、意識の問題
もちろん、この程度のことは他の業界でも日常茶飯事かもしれない。(それはそれで問題だけど)
しかし、この会社の問題は長時間労働や不当解雇が当然であるかのように考えていた経営側(というか社長)の意識にあった。
考え方が前時代的なのだ。
社長はその言動、行動の端々から読み取れたけど、社員を自分の子分のようなものだと考えていたようだ。
『仁義なき戦い』シリーズを見たことがある人ならわかると思うけど、菅原文太演ずる広能昌三の親分である山守義雄に似ているとも言えた。
子分にさえも泣きつくなんてことまではしなかったけど、なりふり構わず自分の利を追求するところは似ていたかもしれない。
社長のことについては次回に譲るから、これ以上は書かないけど、何というか寂しい人だなという印象を受けた。
自分の意にそぐわない言動をとる人を解雇に追い込んだり、降格にしたりしたせいで、周囲に信頼できる人がいなくなり、孤立していたように思える。
経営者が孤独だということはわかるけど、孤立するのはちょっと違うだろう。
僕はそう思う。
もちろん、そうなるに至るまで、僕には想像もつかない苦労があったのだろう。
だから、その部分だけ抜き取って人物評をするのもフェアではないように思えるけど、それを差し引いても自ら顧みるところがなかった点に関しては経営者失格だったのではないだろうか。
今となっては完全に手遅れなんだけど。
【続きはコチラ】
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